3002人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ……」
なんとタイミングの悪い。
紫は隣に座った男に「今はマズイ」と視線で状況を伝えようとするも、男は「うん?」と首を傾げて全く意図に気づかない。
聡子が妄想の世界に旅立っている間に立ち去った方が、お互いの身のためなのに!!
「早くどっか行って!」と、男を追い払うより先に、現実世界に帰還した聡子が声を上げた。
「あっ! 噂をすればの石堂くん!!」
「噂?」
紫の方へ顔を向けながら、何のこと? と尋ねる石堂に、バカと唇の動きだけで伝える。
意味が分からない石堂は、何だよ、と少し不満気な顔をした。
「はーい、そこ、いちゃつかない!」
聡子が、石堂と紫を交互に見ながら、びしっと二人の前に指を突き出す。
その顔はやっぱり楽しそうだ。
「ねぇ、石堂くん。最近どうなってんの? 紫との関係は」
聡子がにやりと微笑むと、石堂はそういうことか、と苦笑いを浮かべた。
「その答えは何度聞いても変わらないな。俺たちはただの、気の合う仲間」
紫は石堂の言葉に首を振り、激しく同意する。
「ね? だから言ったでしょ? 私たちはただの同僚なの! 分かったら、今後一切こんなくだらない質問はやめてよね」
「そんなの、納得できるわけないでしょう!」
「何でよっ」
「だって、誰がどう見たって、あんたたちデキてるもん!!」
まぁ落ち着けって、なんて呑気な声を出しながら、石堂が聡子にコーヒーを勧める。
聡子はカップに残ったコーヒーを一気に飲み干すと、再び石堂に詰め寄った。
最初のコメントを投稿しよう!