1章 ただの同期です

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「あ……」   なんとタイミングの悪い。 紫は隣に座った男に「今はマズイ」と視線で状況を伝えようとするも、男は「うん?」と首を傾げて全く意図に気づかない。 聡子が妄想の世界に旅立っている間に立ち去った方が、お互いの身のためなのに!! 「早くどっか行って!」と、男を追い払うより先に、現実世界に帰還した聡子が声を上げた。 「あっ! 噂をすればの石堂くん!!」 「噂?」 紫の方へ顔を向けながら、何のこと? と尋ねる石堂に、バカと唇の動きだけで伝える。   意味が分からない石堂は、何だよ、と少し不満気な顔をした。 「はーい、そこ、いちゃつかない!」 聡子が、石堂と紫を交互に見ながら、びしっと二人の前に指を突き出す。 その顔はやっぱり楽しそうだ。 「ねぇ、石堂くん。最近どうなってんの? 紫との関係は」 聡子がにやりと微笑むと、石堂はそういうことか、と苦笑いを浮かべた。 「その答えは何度聞いても変わらないな。俺たちはただの、気の合う仲間」 紫は石堂の言葉に首を振り、激しく同意する。 「ね? だから言ったでしょ? 私たちはただの同僚なの! 分かったら、今後一切こんなくだらない質問はやめてよね」 「そんなの、納得できるわけないでしょう!」 「何でよっ」 「だって、誰がどう見たって、あんたたちデキてるもん!!」 まぁ落ち着けって、なんて呑気な声を出しながら、石堂が聡子にコーヒーを勧める。 聡子はカップに残ったコーヒーを一気に飲み干すと、再び石堂に詰め寄った。
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