1章 ただの同期です

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【Side石堂】 「よっ、石堂」 「おぉ、岩本か。久しぶりだな」 石堂がエレベーター待ちをしていると、後ろから同期の岩本に肩を叩かれた。 岩本は石堂と紫の同期で、人事部に所属している。それゆえ社内での顔も広く、あらゆる社内情報に精通していると評判だ。 甘いマスクとそのバリトンボイスで、女性社員をも虜にしている魔性の男でもあった。 そんな岩本が、先程の栗山と全く同じ顔をしながら石堂の肩をぐっと自分の方へ引き寄せ、こそこそと囁く。 「見たぞ、さっき。まだ続いてんだな、華原と」 「続くって、何だそれ。俺ら、お前と同じでただの同僚だぞ?」 「ふ~ん? ただの同僚ねぇ……」 石堂の眉間に皺がよる。 何だって今日はこんなに同じネタで絡まれるんだ。華原とつるむことなんて、今に始まったことじゃないのに。 男女の友情ってやつは、なかなか難しい。双方が特定の恋人ナシ、いわゆるフリーの場合は特に。 二人で食事に行く、それだけで周りは二人のことをカップルと呼び、ありもしない噂を流す。 はっきり言って、うんざりだ。華原も同じ気持ちだろう。 「あのなぁ。くどいようだけど、俺も華原も異性として意識してないから」 「お前、それ本気で言ってる? 相手はあの華原だぞ? 秘書課のマドンナを前にして、なんかこう……男の本能が目覚めないか!?」 「……さっき、栗山にも同じこと言われた」
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