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「しかたない。約束は約束だからな」
「え?」
「あいつ、見知らぬ土地で頼れるのは紫だけなんだろ? だったら、手伝ってやるしかないよな」
「ものすごく不本意ではあるけど」と最後に付け加えた上で、石堂は渋々、亮平の手伝いをすることを許してくれた。
「ありがとう、石堂!」
紫が嬉しくて飛びつくと、石堂は不機嫌な顔は崩さぬまま、紫の身体に腕を回した。
「なるべく早く終わらせるから。石堂は、このままここで待ってる?」
「いや」
「あ、そっか。着替えとかないもんね、ウチには」
紫がそう聞くと、石堂は「俺も一緒に行く」と言った。
「え……」
「引っ越しの手伝いなんて、人数多い方がいいだろ?」
「それは、そうだけど。いいの? 石堂はあんまり亮平のこと、良く思ってないでしょ?」
「紫のことに関しては、全く良く思ってないな」
「じゃあ、なんで……」
「決まってるだろ。ハッキリさせるためだよ、色々と」
石堂が完全に戦闘モードに入ったのが分かった。
「さ、早く紫の手料理食べて、出陣しよう」
紫は心の中で『どうか平和な話し合いで終わりますように』と祈りながら、炊きたてのご飯を茶碗によそった。
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