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「うん、行くよ。場所は……そう。じゃあ、決まったら連絡して」
僕はそこまで言って通話を切ると、座椅子の背もたれに身を委ねた。
高校の同級生である杉谷から飲み会に誘われ、何日も迷った末に参加する旨を伝えた。参加者は僕を含めて三人だから、厳密には飲み会なんて呼べないのかもしれないけど、面倒だからそう呼ぶことにした。
杉谷とは特別親しいわけじゃない。むしろ僕はあいつが苦手だったし、杉谷も必要最低限の会話しか振ってこなかった。どうして今更、とは思ったけど、特に理由を知りたいとも思わない。
僕は組んだ両腕を天井に伸ばしながら、大きく欠伸をした。
壁に掛かった時計を横目で見る。時刻は十時を少し過ぎたところで、思ったより時間が経っていないことに気付いた。
溜め息と呼ぶには弱く、それでいて確かな憂鬱を孕んだ吐息が部屋に溶ける。通話の内容を振り返り、もう少し愛想よくするべきだったかもしれないと少しだけ反省した。
でも、どうせ今回限りの付き合いだからどう思われたって構わないとも思った。電話一本で崩れるような関係なら、初めから無いも同然だろう。
本音を言えば、杉谷と顔なんて合わせたくはない。まだ先の話ではあるけど、既に気が重くなっているくらいだ。
でも、僕には知りたいことがある。それが無かったら、飲み会なんて誘われた時点で断っていたに違いない。
美冬は今、どこで何をしているのだろうか。顔の広い杉谷ならきっと知っているはずだ。美冬のことが分かったら、適当なところで切り上げて帰ってしまえばいい。
座椅子から立ち上がり、布団が乱れたままのベッドで仰向けになった。純白の蛍光灯が放つ光が、目に深く突き刺さる。確か、あの時の日差しもこんな感じだった。
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