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好き嫌い……特にありません
尻目に捉えていたが、鈴木は向かいに座る看護師からローストビーフを口に運びながら指を指されても、全くの無表情だった。普段から感情の起伏が少なく、落ち着いている鈴木だったが、俺達と話す時は下らない会話にも付き合う気さくな男だ。
「佐藤さんは、仕事が休みの時は何をされているんですか?」
覗き込むように顔を近づけてくるマナミちゃんに、正面から視線を合わせる事が出来ない。
「やっ、休み?そうだな……大体寝てるかな……あっはっは」
頭に手を当てながら、正直に答えた。すると、マナミちゃんは笑顔を見せた。
「……好きな食べ物って、何かありますか?」
スパークリングワインに手を伸ばし、口に運ぶマナミちゃん。好きな食べ物……特に思い付く物がなかった。
「特に……ないかな……俺、好き嫌いないんだよね」
無難にアピールになるな、うん。だがマナミちゃんは、口に運んだワイングラスを勢いよくテーブルに置き、グラスの中身が飛び散った。店内の喧騒にかき消され、他の四人はそれに気付かなかったようだ。俺が突然の出来事に呆気に取られていると、「……ちょっとお手洗いに」と一言残し、マナミちゃんは席を立った。
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