松と梅と梅

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松と梅と梅

なんて……なんて可愛いんだ。 目の前に座る女性に、目を奪われていた。 「……何か?」 肩まで伸びた髪を耳にかけながら、尋ねてくる彼女に、「……いや、何でもない」と答え、頭を振った。 「ふっふっふ……あっ、このサラダ美味しいですよ?佐藤さん、食べます?」 「……えっ……あっ、あぁ」 サラダが盛られた小皿を受けとろうと手を伸ばした時、彼女の中指に触れた。脈打つ鼓動に、手に持つ小皿を落としそうになる。彼女も確かに俺が触れた事に気付いている筈なのに、特段の素振りを見せず、「他に食べる人いますか?」と周りに声をかけていた。 三対三の合コン。場所は、船橋駅近くのフランチャイズの居酒屋。社会人三年目になり、彼女がいない俺に愛想を尽かした同期の工藤が発起人となり、同じ同期の鈴木と一緒に相参じた訳だ。 工藤は、顔も人脈も広い。今日の対戦相手もどこで繋がっているのか、『大手建設会社の受付嬢』『保育士』『看護師』だった。話を聞くと、彼女達は大学の同級生だと言う。 テーブルを挟んで俺の向かいに座っている彼女は、受付嬢のマナミちゃん。歳は俺より一つ下の二十四歳。フェミニンな服装に、胸を強調した白のセーターが何ともいえない。そのセーターの下には、大きなチョモランマが隠れているようだ。 この女……絶対俺を意識してやがる。 あぁ、そうだよ。俺は、マナミちゃんに会ってから君に夢中だ。全く、俺好みのビジュアルだ。 マナミちゃんを正面に見て、右隣に保育士が、そのまた右隣に看護師が座っている。俺の見た目の好みで言えば左から、『松』『竹』『梅』だ。いや……違うな。『松』『梅』『梅』だ。先程自己紹介を一通り終えていたが、既に『梅』二人の名前を忘れていた。それほど『松』のマナミちゃんに、釘付けだった。
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