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今夜は、なんて日だ
「ねぇ、ねぇ?ちょっと早いけどさ……第一印象で誰がタイプか、指差してよ?」
右隣に座る工藤が、彼女達に提案した。
「えぇぇぇ?早くないですかぁ?そんなの決められませんよぉぉぉ」
甘ったるい声を出しながら、口を尖らす保育士に苛立ちを覚えた。手に持っている箸で、食ってかかろうかと、空想した程だ。何なんだよ、さっきから。妙にこいつ、自意識高くないか?お前は所詮、俺の中では『梅』なんだ。
保育士が看護師に同意を求めるも、看護師は先程運ばれてきたローストビーフに夢中で、耳を貸そうとしない。見た目通りのスタンスだ。食べてばかりの、抜群の安定感。この女も見事に『梅』だよ、全く。見兼ねた保育士が今度は、マナミちゃんに同意を求める。
「……私は……別に」
上目遣いで視線を送ってくるマナミちゃんに、胸が脈打つ。
まさか……もしかして……マナミちゃん?
工藤はそれに気付いたのか、隣に座る工藤の膝が俺の足に触れた。一瞬、工藤に振り向くと工藤がウインクして見せる。
工藤……ありがとう。
全く……今夜はなんて日だ。
「よし……じゃあ、いい?いっせぇのせっ!」
工藤の掛け声が、響き渡った。
すると、マナミちゃんは俺を控えめに指差した。
「おっ……おぉぉぉぉぉ」
思わず声が溢れた。マナミちゃんが、照れ臭そうにしている。そんな仕草もいちいち可愛かった。周りを見ると、保育士と看護師も向かいに座る工藤と鈴木を仕方なしといった様子で指差していた。
「……ありがとう。嘘でも、嬉しいよ」
マナミちゃんに礼を述べた。
「……いえ。そんな事……」
そう言って、スパークリングワインが入っているグラスに手を伸ばすマナミちゃん。そんな事?そんな事って事は、俺の『嘘でも、嬉しいよ』に対して、そんな事じゃないですよって、意味か?
……って、事は……。
「……何だよ。席替えする必要ないか」
愚痴を溢しながらも、『やったな』と視線を向ける工藤。素直に喜んでいいんだよな……一目惚れしたマナミちゃんからのアプローチに、気分が高揚してきた。
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