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鈴木は、良い奴?
「……マジかよ」
怒りに駆られた俺は、工藤に電話した。だが無情にも、呼び出し音が繰り返されるだけで、工藤は出なかった。
「ねっ?だからマナミと今頃、ヨロシクしちゃってるって」
気にも留めていない様子で、淡々と酒を飲み続ける保育士の感覚に疑問を持った。そんなアグレッシブなマナミちゃんと付き合っていて、何とも思わないのか?
初対面だったとはいえ、マナミちゃんに抱いていた淡く微かな恋心が溶け出し、そして工藤に対する嫉妬と裏切りで、投げ出したくなる気持ちだった。それに、ヨロシクって、あの『ヨロシク』か?ふざけんなよ?
「……そんな事より……えっと、鈴木さんでしたっけ?」
ハイボールが入っていたグラスを飲み干し、保育士が鈴木に尋ねた。突然話しかけられた鈴木は、保育士に顔を向けると、「……はい」とくぐもった声を発した。生意気にも工藤程ではないが、鈴木も端正な顔立ちをしていると思う。
鈴木は以前にも工藤と合コンに参加した事がある様だが、普段から女っ気を感じさせない為に、どうして参加しているのかわからなかった。
「鈴木さんって、カッコいいですよね……この後、二人でカラオケ行きません?」
おいおい……俺がいる前でそれ、言うか?
「……いいですよ」
鈴木が立ち上がると、「やったぁ」と保育士も立ち上がった。二人の顔を交互に見遣ると、鈴木が顔を近づけて、「……先に行くな?」と俺の耳元で呟いた。
「おっ、おい……」
お前まで俺を置いていくのか?不安そうな表情を浮かべる俺に鈴木は、「そこの看護師……お前と気合うぞ、きっと」と、不思議な笑みを浮かべた。
「……はぁ?」
鈴木と一緒に看護師を見遣ると、相変わらず食べてばかりだった。鈴木の言う意味がわからず、問い質そうと口を開けた時、「じゃあな」と鈴木は俺の肩に手を置いて、保育士と一緒に去って行った。
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