5人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「まあ推理小説がたまたま1本当たったお陰で、今は文系の専門学校で一応、教師みたいなことをやって居られるけどね。
結婚もしないで、親から譲渡して貰った家賃なしの実家に住んで、いい歳してまだベストセラーの夢を追いかけてる痛いオトナなんて。
キミみたいな若い子の言葉では【ニート】って言うんでしょう」
「自分を卑下なさらないで下さい!
まだ36ですよね。先生は若くてカッコいい。
あんなに素晴らしい小説を上梓出来る、才能に溢れたとても素敵な男性です。
ボクはその人間性も含めて、先生に深い憧れを抱いているんですから」
「…………ぶっ」
日本酒を吹いて、慌ててティッシュで拭う。
── 幾月くんの賞賛は、本人に悪気が無くても大体リアクションにひどく困る。
「先生。執筆で何か辛いことがあったのかも知れませんが、ボク達ファンは先生の新作なら時間がかかっても、ちゃんと待ちますから。
安心して下さい。
ボクに何か出来ることはありますか。
ボクなんかでお力になれることがあれば、何でも言って下さいね。
ボクは、先生のお力になれるのなら、喜んで何でもしますから。
先生の為なら、使いぱしりでも、肩もみでも、裸踊りだってボクは平気なんです」
「……相変わらず、キミの誠意がおかしな方向に驀進している気がしないでもないけど。
真面目な顔をして、安易にそんなことを言うものではありませんよ。幾月くん」
僕がそうたしなめて、再び縁側のひんやりした床に寝転がる。
最初のコメントを投稿しよう!