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PartⅢ
「ウラシマ効果が起こったということは・・・」
そう考え始めたジェミニ―はワープしている間にこう気づくに至った。
「僕は今度、ムーシャン星に帰ったらムーシャン星からティーボール星までを2回往復した事になるから最初にティーボール星に向かった時から換算すると、あのカスミの年の取りようから見て・・・これはとんでもない月日が流れたことになるぞ!そう言えば学科教習でワープ航法は緊急時にしか使ってはならない。何しろワープ航法で移動した者はムーシャン星に帰還すると、相対性理論にあるように時間のずれを生じさせるからワープ航法は滅多なことでは使ってはならない。よって技能教習は行わないって教官が言ってたなあ。どうも僕は一つのことをやり遂げるのに夢中になると、早く結果を見たくて猪突猛進して肝心なことを忘れてしまうんだよなあ。プレゼントを忘れたり相対性理論を忘れたり・・・」
ムーシャン星に無難に着いて自宅に帰ったジェミニ―は、相対性理論の書を紐解き、詳らかに計算してみると、70年もの時間が経過していることが分かった。
「ということは親はとっくの昔に死んでいて他の血族も死んでいて友達も死んでいることになるから僕は天涯孤独になってしまったんだ。そして職も失ってしまったんだ。しかし僕はまだ26だ。スキルもあるし直ぐに就職できるさ。そして足元を掘れ、そこに泉があるという格言に従って態々他の星へ行って探すのではなくこの母なる星ムーシャンに住む女、つまり僕の足元にいる女の中から飛び切り美人を探し出して恋人にすればいいんだ」
ムーシャン星では男が女にプロポーズする際、熟成された上等なヴィンテージワインをプレゼントするのが最も素敵なことと相場が決まっているからジェミニ―は更にこう思った。
「そうだ、ブドウの当たり年の収穫期後、シャトーへ行ってマロラクティック発酵が終わって熟成し始めたばかりのワインを樽の中から格安で分けてもらって瓶詰めしてもらってヴィンテージが記されたラベルを貼ってもらえれば、しめたもんだ」
そう閃いたジェミニ―は、アルバイトをしながら貯金とダイヤを売った金で暮らしを立てて行き、ブドウの収穫期を待つことにした。
そうして最初の年はブドウが不作ということを知り、パスした。翌年も駄目でパスしたが、翌々年、遂に当たり年となったのでブドウの収穫期後、喜び勇んでシャトーへ行った。
それで運よく人の良い従業員に行き当たって交渉の結果、ヴィンテージラベル付きのワインを安価で購入することに成功したジェミニ―は、早速、宇宙艇でティーボール星へ向かい、時間をロスすることなく半日ほどで宇宙艇を人気のない森の傍に着陸させた。
「よし、ここなら大丈夫だろう」
そう判断したジェミニ―は、地面を掘ってワインを穴に入れて掘り返した土で埋めた。そしてティーボール星からムーシャン星をミステイクなく一日余りで往復して元の場所に戻って来てワインを掘り出した。
「へへへ、これで、こいつは35年寝かしたことになる」
それからムーシャン星に通常通り半日ほどで帰って来て、「これでこいつは52年と半年寝かしたことになる。その長い歳月に耐えたとすれば、この上なく熟成された超上等なヴィンテージワインになったことになるぞ!」
そう手応えを感じたジェミニ―は、テイスティングするべくコルクスクリューでコルクを抜き、まずは匂いを嗅いでみた。
「う~ん、トレビア~ン!何て芳しい香りなんだろう!こいつは絶対、持ち耐えながら熟成されたに違いない!」
そう確信したジェミニ―は、ラッパ飲みして口中に含んでからごくりと喉に流し込んだ。
「ふう、デリーシャス!なんて味わい深いワインなんだ!矢張りこいつは間違いなく持ち耐えながら熟成したんだ!だから掛け値なしにどんな高級ワインもこいつには太刀打ちできないぜ!」
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