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PartⅣ
その後、ジェミニ―は美女と結ばれる為にはちゃんとした所に正社員として就職しなきゃいけないなと思ってスキルを活かして目的を成就したが、勤務先の会社には自分が恋心を抱く程の女はいなかった。
そこでジェミニ―はバーとかクラブとかキャバクラとか美女がいそうな社交場へ積極的に通ってみたが、自分が満足できる程の女は見つからなかった。
それならばと一再ならずソープランドに行ってみたり、デリヘル嬢を自宅に呼んでみたりしたが、それでも駄目だった。
「嗚呼、ヴィンテージワインもあるし、背もあるし、今や、部長にまで昇進して金もある。美女と一緒になる条件は揃ったんだが、肝心のその美女がいないと来てやがる。どうしたもんかなあ・・・」
そんな風に途方に暮れる事も有った師走の頃、ジェミニ―はソムリエが給仕するプリフィエールという高級レストランで食事をしていると、壁の張り紙に目が行って読んでみるとこうあった。
「ヴィンテージワインをお持ちのあなたにとても素敵な耳寄りの情報があります。なんと当店オーナーが薔薇のように美しい一人娘の令嬢をあなたに差し上げるチャンスを与えても良いと言っているのです。そのチャンスをものにするには幾つかの条件をクリアする必要があります。第一にあなたは当店ソムリエにあなた自慢のヴィンテージワインを渡してテイスティングしてもらい及第しなければいけません。第二にあなたは当店ソムリエに身分や財産を明かして鑑定してもらい及第しなければいけません。その上で初めてあなたは自慢のヴィンテージワインで以て令嬢にプロポーズさせてもらえるのです。それを受けて令嬢はその場でテイスティングして合否を決めます。合格なら令嬢とデートさせてもらえます。その際、令嬢に気に入られれば、あなたは令嬢を自分のものにすることが出来るのです。さあ、自信のある方は今すぐ当店ソムリエにお申しつけください!」
これは天が与えてくれたチャンスに違いないとジェミニ―は思い、当然、チャレンジしてみる気になり、翌日の夕食時に一張羅のフォーマルウェアを着て例のヴィンテージワインを入れたボストンバッグを携えて再びプリフィエールに行って食事をすることになった。
「畏まりました。1955年シャトーオーブリオンでございますね。只今、ご用意いたします。少々お待ちくださいませ」
ジェミニ―は食後も追加して頼んだのだ。それもプリフィエールに置いてあるワインの中でも最高級のヴィンテージワインを。
「お待たせいたしました。こちらがご注文いただいた1955年シャトーオーブリオンでございますが、澱がございますからデカンタージュさせていただいてよろしいでしょうか?」
ジェミニ―は許可してテイスティングする段になると、試合前のボクサー張りに挑戦的な鋭い目をして一口飲んでみた。
「これは確かに素晴らしい香りと味わいだ」
そう言葉通り感じながらも負けん気を起こしてボストンバッグから例のヴィンテージワインを取り出すと、得意げに言い放った。
「だけど、これには敵わないだろうがね」
「それは何というワインでございましょうか?」
「見れば分かる」とジェミニ―はきっぱり言ってソムリエに渡した。
「こ、これはあのブドウが良好なテロワールによって栽培された、最高に豊作だった1950年のシャトームートンロートシルトではございませんか!」
ジェミニ―は豊作だとは知っていたが、最高だとは知らなかったので自信を深め確かなものにして答えた。
「ああ、そうだとも」
「お客様はオーナーのお嬢様をもらいに来られたのでございますね!」
「ああ、そうだとも」
「では、早速、テイスティングさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ」とジェミニ―が許可すると、ソムリエは、ワイングラスに少し注いで色や香りを確かめてから口に含ませ、じわじわと飲み干した。
「こ、こ、これは凄い!酸味と甘味の絶妙なバランス、それでいて滑らかな渋味とほのかな苦味とフルーティな果実味があって更にはフルボディの大人の重みと深い余韻が楽しめる!いやあ、色合いと言い、香りと言い、味わいと言い、私はこんな素晴らしいワインを初めていただきました!」
「そうか、じゃあ、第一条件はクリアした訳だな」
「勿論でございます!」
「そうか、じゃあ」とジェミニ―は言うと、身分証明書や名刺や預金通帳などをディナージャケットのポケットから取り出してテーブルの上に並べた。「確かめてくれ」
「畏まりました」とソムリエは言うと、無言で調べ始めた。「申し分御座いません。第二条件クリアで御座います。それではオーナーに連絡してまいります」
「うむ」
而して取り次いだソムリエに今度の日曜日(二日後)の午後5時にプリフィエールの裏にあるオーナー邸へ来るように言伝されたジェミニ―は、勿論、喜んでOKしたが、ディナージャケットに付いたベジャメルソースの染みに気づいて、こんなにめかし込んでくるんじゃなかったと後悔した。
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