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PartⅠ
ジェミニ―は美人が浜の真砂の数ほどいると噂のティーボール星へ兼ね兼ね行ってみたいと思っていた。実際、行ったなら美人をゲットする腹積もりでいた。彼はこうと決めたら直ぐ実行に移すタイプだから目星をつけた女性を口説き落とせるようティーボール星の言語をマスターし、宇宙艇教習所で技能教習と学科教習を受け、宇宙艇免許を取得すると、購入した我が宇宙艇で大型連休になってから母なる星ムーシャンを後にした。
落ち度なく半日ほどでティーボール星の大気圏内に入り、朝日が昇ろうとする明け方、無事、着陸した所は小さな公園だった。宇宙艇は大型の乗用車より一回り大きい程度の寸法だから小さな公園でもジェミニ―は降り立つことが出来たのだ。
辺りの家々はまだ寝静まっていたが、小鳥たちが可愛らしく囀りながら木々の間を楽しそうに飛び交っている。その他に公園の中で目に付く生物と言えば、ベンチに一人で腰掛けている女だけだ。
彼女は宇宙艇が突如として現れたのでびっくり仰天して体が竦んで身動きが取れないようだった。ティーボール星の美的価値観から見れば、有り触れた十人並みの女に過ぎなかったが、ムーシャン星の美的価値観から見ると、とても美しい女の部類に入るのでジェミニ―はいきなり美女に出くわすとは超ラッキーと思いながら女に近づいて行った。
一方、女は地味で目立たないタイプで普段、男が寄って来ることが無いのでジェミニ―が寄って来ることにも驚いていた。
「僕はムーシャン星からやって来たジェミニ―・ギドと申す者です。星は違えど、お互い人類に違いなく見てのとおり男ですが、心配はいりません」
女は呆気に取られながら恐る恐る口を開いた。
「そ、そうですか」
それだけ言うのが精一杯だった。
「あの、とてもあなたがお綺麗なんでここへ参った次第でして」
「そ、そうですか」と女は呆気に取られた儘、判で押したように答えた。
「あの、不躾ではありますが、ずばり聞きます。彼氏はいますか?」
「いえ、いませんけど」
「あっ、そうですか、では」と言ってときめいた時、しまった!プレゼントを用意して来るのを忘れたと気づいたジェミニ―は、失態を悔いながら言葉を継いだ。
「あの、僕はあなたに一目惚れしてしまいました。ですからプロポーズしたいんですが、生憎、プレゼントを持ち合わせていません。となると今からムーシャン星へ引き返して買って来るしかないですが、それには一日余りかかり、今直ぐとは行きません。ですから、あなたの家を知っておく必要があります。そこでどうです、今から家まで案内してくれませんか?」
期せずして急激に迫られ、「えっ!あの、その」と女は戸惑い躊躇った。何せ、信じられないことに男がアタックして来ているのだ。而も異星人がだ。しかしジェミニ―が自分の好みのタイプなので、「お願いします」と彼に念を押されると、自分の家を指差して、「あの、あの赤い屋根の家が私の家です」とどぎまぎしながらも答えた。
「ああ、そうですか、ご近所なんですね」
「はい」
「ちなみにあなたのお名前は?」
「カスミと申します」
「そうですか、分かりました。では、早速プレゼントを買いに行きますからどうか楽しみに待っていてください!」
ジェミニ―はそう言うが早いか、宇宙艇に向かって駆けて行き乗り込むと、あっという間に宇宙艇諸共空高く舞い上がって行って遥か上空でぷっつり消えてしまった。
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