蟋蟀

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昆虫採集が終わり、皆は教室に戻った。 「それでは虫かごに名前書いて後ろに置きましょう」 教室後ろのランドセルロッカー、その上に続々と虫かごが置かれていく。ランドセルロッカーの上が動物園ならぬ昆虫園となっていく。一クラス分全員が取った虫が並ぶのは壮観である。 「じゃ、餌は用意しましたので。皆さんの虫かごに入れておいて下さい」 担任教師は教卓の横に置かれていたスーパーマーケットのカゴを教卓の上に乗せた。中身はいわゆるクズ野菜とされる野菜の切れ端ばかりだ。ドリップの浮いた肉も若干入れられている。 担任教師はクラスの皆に野菜を配っていく。一応は昆虫学者志望だったのかどの虫が何を食べるかと言うことはキチンと把握しているようで、それぞれに適した野菜を与えていく。 クラスのガキ大将が野菜を受け取る時、担任教師の手が止まった。 「そうか、あなたのは」 「おれが取ったやつ野菜食わねぇよ」 「じゃ、お肉ですね」 ガキ大将は肉を受け取った。私は、肉食べる虫とは一体と思いながら首をぐいーと後ろに向けた。私は「そいつ」と目が合い、ゴキブリと相対した時のような寒気を覚えた。
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