蟋蟀

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私が教室に着くと、教卓の前に人だかりが出来ていた。私はそれに構わずにランドセルロッカーの前を右往左往し、コロちゃんの入った虫かごを探した。 ところが、どれだけ探してもコロちゃんの入った虫かごはない。 あれ? どこに行ったんだろうと必死に探すがやっぱりない。どこにいったのだろうか思いながら自分の席につくと、隣の席の友人が机に突っ伏して泣きじゃくっていた。どうしたのだろうと声をかけようとすると、教卓の方より「わー わー すげー すげー」と言った歓声が聞こえてきた。 何叫んでるんだあいつら。私は気になり教卓の前に向かった。教卓の上にはいくつかの虫かごが乗せられていた。 「すげぇ! 同じ大きさのショウリョウバッタ食っちまったよ」 「うわ、気持ち悪い……」 男子は歓喜、女子は嫌悪の空気だった。どうやらガキ大将が自分の取ってきた虫に他のクラスメイトの虫を食わせているようだった。 ガキ大将が取ってきた虫は、私がこの前目があった「あいつ」そう…… カマキリである。 私が登校する前までに餌食になったショウリョウバッタがいたのか、腹をぽっこりと膨らませたカマキリの足元には比較的硬い脚や薄羽の欠片が無残に転がっていた。数分前まで生き物だったものが腹中に下る、弱肉強食に食物連鎖の厳しさを目に焼き付けられてしまった…… 私達とて牛豚に形は違えど同じことをしている、それが弱肉強食で食物連鎖だ。ただ、知っているだけで「見た」ことはない、それは「理解した」とは言えない。「見る」ことで初めて「理解した」ということになるのだ。 そして、目の前で生きたままカマキリに食べられた虫の残骸を見て 「理解してしまった」 私は体をガクガクと震わせた。
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