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カマキリはその小さな口でコロちゃんの胸の上部にかぷりと噛み付いた。彼女がコロちゃんを捕まえる際に優しく摘んだ胸の上部である。
人の指でさえも容易く削り痛みを与えるカマキリの黒鉄の刃のような大顎と下顎は無慈悲に容赦なくコロちゃんの体をカリカリと削りながら食べていく。胸が半分ぐらい食べられたところでコロちゃんの腹の先端より何やら黒いものがぼとぼとと垂れる。それを見てガキ大将が半笑いの口調で叫んだ。
「うわ、食べられながらクソしてるよ。だっせ」
生きたまま食べられる最中の断末魔の脱糞を見て笑うとは…… 子供故の残酷さは本当に恐ろしいものである。大人になった今にしてみれば、頭胸腹を通じる神経系から胸の神経系が食べられて喪失したことで腹の神経系が切れて弛緩して脱糞しただけだろうと、何とも現実的ながら白けた目線で見てしまう。
足の生えた胸を僅かに残したところでカマキリは斧を器用に回すように動かし、コロちゃんを仰向けの体勢にした。首を傾げて今度は腹を食べにかかる、腹は胸に比べて柔らかいのか食べるペースが早くなる、胸を食べ終えたところで、僅かに残った胸に繋がっていた羽根がぼとりと落ちた。コオロギの鳴き声は二枚の羽根を擦り合わせて発するものである、コロコロコロと美しい音色を発していた羽根が無残に落ちる。
硬い脚と羽根だけを残してコロちゃんは食べられてしまった。その後、追加でオンブバッタが投入されたのだが、威嚇するばかりで食べる気配はない。
ショウリョウバッタとコオロギの二匹を腹に入れて満腹と言うことだろうか。
満腹状態のカマキリ。カマキリは満腹状態にあると餌を一切食べない。意図的に餌をちらつかせても威嚇して餌を遠ざける生態を持っている。
朝からとんでもないものを見てしまった…… 私はなんともうらぶれた気分になり席に戻る。そのついでに彼女から託されたキュウリをぽいとゴミ箱に捨てた。
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