恋に生きる人と笑わない豚

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 いつものように彼女の話を聞き流しそれっぽい相槌を打っている。  そうしているうちに電車が来た。特に遅延などなくてよかったと思う。 「またね」  彼女はいつものように手を振って見送る。俺はそれと周りの視線を無視して、電車が発進するのを待った。  昔から持て囃されるものは苦手だ。何故なら、人間にしろ物にしろ自分には遠い存在だから。  きっと人生というものをレースに例えると、俺は最後尾を走っているのだと思う。息も絶え絶え、なんとか走者たちに着いていき追いつこうとしている。  だから、一位グループの背中を見ていると、どんどん惨めになっていく。こっちは必死なのに、向こうは余裕綽々で楽しそうな顔をしている。  人間、スタートラインが同じだというのは嘘だ。家が裕福だったり外見が整っていたりする人間は産まれてきた時点でスタートラインをかなり優遇されている。  それに、持て囃されるものに関わって、無傷で済んだことはない。精神的に痛め付けられる。  基本的に持て囃されるものが俺に近付いてくることはない。何故なら、この見てくれで俺と関わって得をすることなどないからだ。  なのに、それが自らこっちに近付いてくるときがある。その場合、大抵は俺が酷い目に遭う。 「おい」  ふと誰かに声を掛けられて、我に返る。 「今朝、一緒にいた女とはどういう関係だ?」  顔を上げると、スキンヘッドで唇にピアスをした男が俺を見下げていた。  ここは教室だ。本来は授業中のはずだが、先生の急用で自習になっていた。  こんなインパクトがある見た目なのに見覚えがない。  でも、見るからに……な見た目なので、しばらく学校へ来ていなかったのかもしれない。  今朝の女というのは、言うまでもなく彼女のことだろう。そうわかっていたが「女って?」と聞くと「駅のホームで一緒にいただろ」と返された。間違いなく彼女のことだ。 「あれとはもう関わらない方がいい」  彼女と彼がどういう関係なのかわからないけど、警告されていることはわかる。 「そう言われても、ずっと待ってるんだよ。早朝から夜遅くまで」  俺だって色々と彼女から逃げようとした。  だけど、いくら朝早く行って夜遅く帰ってきても、駅のホームには彼女がいる。 「――その時点で何かおかしいと思わないのか?」  彼は冷たくそう言い放つ。 「何で、電車通学に拘る? 自転車とか最悪徒歩で行けばいいだろ……」  しかも、俺に対する説教が始まった。それから彼は彼女から何がなんでも逃げろという話を長々とし始めた。  皮肉にも、こういうのには彼女との会話で鍛えられている。言うまでもなく、聞き流した。  が、彼は彼女のようには行かず、不機嫌そうに「おい、聞いてんのか」と俺を睨んだ。 「そんなに鈍いと気付いたときにはもう逃げられなくなってるぞ」  この男は何でこうも偉そうな物言いをするのだろうか。  俺は彼を睨み返した。 「さっきからお前は何? 俺と彼女が会っているだけで何か問題があるの?」  俺は「もしかして」と彼を嘲笑う。嘲笑といえど、笑うのはかなり久しぶりだ。 「お前、彼女にフラれたのか?」  その言葉に場の空気は凍り付いたような気がする。彼の顔から血の気が引き「もういい……」と呟く。
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