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「壊れても知らないからな」
彼はそう捨て台詞を吐いて、教室から出て行った。
俺は何かと思いつつ、こういう人種を初めて言い負かしたことに優越感めいたものを抱く。彼の話に引っ掛からない部分がないといえば嘘になるが、ああいうのとは関わりたくないという気持ちの方が強かった。
放課後、今朝よりずっと空いた電車に揺られて俺は帰っている。部活に入っていないので、学校へいても特にやることはない。
「お帰りなさい」
駅のホームには彼女がいた。いつもここは俺の家じゃないのに、そんなことを言って出迎える。
「今日はどんな一日だった?」
「特に変わったことは」
なかった。そう言おうとしたら、スキンヘッドのことが頭に浮かぶ。
「お前、うちの学校に知り合いがいる?」
「いるけど、どうしたの?」
俺から彼女に質問をするのは珍しい。彼女は明るい笑顔になった。
「じゃあ、スキンヘッドで口にピアスをした男は知ってる?」
だけど、その笑顔はすぐに凍り付いたように見えた。
「知ってるけど、その人がどうしたのかしら?」
強張った表情でそう聞く。
「今朝、ここで俺たちを見たって」
それを見て、なんとなく俺は詳しいことは話さない方がいいような気がした。二人の関係が良くないことは言われなくてもわかった。
「私のこと、嫌っていたでしょ」
わかっていたけど、言われると動揺してしまう。俺の身体がびくっと跳ねた。これは肯定しているのと同じだ。反動で揺れる脂肪はコクコクと頷いているようだった。
彼女はその様子がおかしいのかくすくすと笑い出す。
「彼はね、私に告白してきた人の友達だったの」
しばらくすると、スッと笑顔が消えて神妙な面持ちで昔話を始めた。
俺なりに簡単に纏めると、かなり理解できない事柄の悩みだった。事柄というより犯罪と言っていいかもしれない。
彼女はその告白してきた相手を友達以外には思えなかった、らしい。
だから、告白を保留してしまった。告白の事を頭の片隅に置いて、告白前と変わらない付き合いをする。
すると、どういう訳か相手が周囲に彼氏面をして束縛し始めた。外堀を埋めようとしていたのだろう。彼女は告白が有耶無耶になるのを焦っていたのだと推測した。
彼女自身、最初は何が起こったのかわからなかったが、事態を把握するとすぐさま相手と話し合うことにしたそうだ。
だけど、話し合いは上手くいかなかった。振ろうとしたら激昂して刃物を持ち出された。
「そこにね、たまたま先生が居合わせたから事なきを得たんだけど、その人は捕まっちゃった」
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