恋に生きる人と笑わない豚

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 多分、今俺に対して強い関心を寄せているのは彼女くらいのものだろう。 「昨日の話で来てくれないかもって思ってたから、すごく嬉しい」  彼女は嬉しそうに俺に話し掛けてくる。俺は今日もまた彼女の話を聞き流して、いい加減な言葉を返している。  薄々、彼女は俺が話を聞き流していることを気付いているのだろう。それでも、嬉しそうに話を続ける彼女を俺は理解できない。  今日もまた特に遅延もなく電車が来る。俺はすぐさまそれに乗り込み、手を振る彼女を一瞥して他人の振りをした。  味気ない学校での一日が終わり、俺は学校から出ようとしている。  今日はスキンヘッドを教室で見なかった。やはり、あまり学校へ来ていない人間のようだ。  別に、会いたかった訳じゃない。むしろ、会えなくてよかったとさえ思う。 「おい、布田」  校門からちょうど出たとき、唐突にそう呼び掛けられてヘルメットを投げられた。驚きつつも、俺はなんとかそれを取ることが出来た。 「一緒に帰ろう。送ってやるよ」  投げた相手を見る。それはバイクを手で押すスキンヘッドだった。  俺は戸惑う。昨日の記憶がないのだろうか。明らかに一緒に帰ろうって雰囲気の別れ方じゃなかった。  いや、それにもっとおかしなことがある。 「何で、名前を知ってる?」 「入学式のあと、自己紹介があっただろ?」  その言葉に目の前の人間が同じクラスだと気付いたが、やはりそんな目立つ人間が入学当初にいたかというと全く記憶がない。 「一緒に帰るのが嫌だったら行きたいところに連れていってやるよ」  相手は条件を変えてくる。どうやら、何がなんでも今、俺を帰らせたくないらしい。 「そういうのは別にいいから」  俺はヘルメットをスキンヘッドに投げ返す。スキンヘッドは難なくそれを受け取った。 「そこの喫茶店に行こう」  スキンヘッドが何か言おうと口を開く前に俺は近くの喫茶店を指差した。 「彼女の話がしたいんだろ?」  俺と彼との接点なんて彼女くらいだ。彼は「ああ。いいぜ」とバイクを押して喫茶店へ向かった。  この喫茶店に初めて入ったが、随分と年季の入った造りをしている。アンティーク調とかいう話ではなくただただ古い感じだ。今、俺が座っている黒ずんだ白いプラスチックを見て思った。 「彼女から聞いた話だと、お前の友達がフラれそうになって刃物を持ち出したんだろ」 「――あいつの中ではそういう話になっているのか」  注文したものが来るのを待つ間もなく俺たちは本題に入る。 「違うのか?」 「フラれて逆恨みしていたのは否定できない」
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