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スキンヘッドは口の中が渇いたのか水を一口飲んだ。
「だけど、刃物を持ち出したのはあいつだよ」
そして、憎々しげにそう毒づき、友達から見たそのときの話をし始めた。
「刺されそうになったと言っていた。それで、揉み合いになったらしい」
色々と彼女が言っていた話とは違うようだ。
「ナイフを奪ったところに、先公が来てパクられたんだよ。バカは」
バカというのは彼の友人のことだろう。バカだと言いつつ、愛着を感じる言い方だった。ただ、少し哀れみも混じっていたけれど。
「――つまり、お前は彼女が嘘を吐いて友人は嵌められたと言いたいんだな。証拠はあるのか?」
「あったらお前じゃなくて警察に言うよ」
彼は証拠がないことをあっさりと認めた。
そのとき、注文していたホットコーヒーとコーラが来る。俺はコーヒーを受け取って、少し飲んだ。
「じゃあ、信じるか信じないかは俺次第なんだな」
スキンヘッドは何も言わずにコーラを飲む。
そこからお互い、何も言わずにただ飲み物を飲み続けるだけの時間が流れる。
「どっちしろ、あの女とはもう関わるな。言いたいことはそれだけだ」
コーラを飲み干したあと、そう言いながらスキンヘッドは千円札を机に置いた。
俺は彼が喫茶店から出るのをコーヒーを飲みながら見ていた。
俺は知らず知らずのうちに、とんでもないことに巻き込まれているのだろうか。
駅のホームに着いて、俺に駆け寄ってくる彼女を見ながらそんなことを思う。
「お帰りなさい」
彼女は俺を見るとき、とても嬉しそうな顔をする。
「お前ってさ、モテてたの?」
いつものように今日はどんな一日だったか聞かれたあとに、俺は答えがわかりきっている質問をしてみる。
彼女は決まり悪そうに頷いて「ごめんね」と謝った。こういうことで謝るのは凄い嫌味だと思う。
そこから特に会話は続かない。
でも、これはいつものことだ。昨日は少し珍しかった。
そのまま、駅のホームを出て俺たちはいつも別れる。
こんな何が面白いのかわからない時間でも彼女はとても楽しそうだ。
正直に言うと、美人に言い寄られて良い気分がしないと言えば嘘になる。怖いと同時にやはり嬉しくもあった。
だから、ちゃんと拒否できずにこんなことになっているのかもしれない。
「あのさ」
俺は改札口を前に立ち止まる。既に出た彼女は不思議そうな顔で振り返った。
「何で、俺に告白したの?」
今まで自分の中で溜め込んでいたものを吐き出す。彼女は目を丸くした。
「それは好きだから」
「いや、そうじゃなくてどういう理由で?」
「だから、好きだからよ」
彼女は心底不思議そうな顔で俺の質問に答える。俺はその姿にとても苛立った。質問の意図をちゃんと理解していない。
「――お、俺の何処が好きなの?」
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