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俺は俯いて、自分の口からは言いたくなかった具体的な質問をした。視線の先には俺の出っ張った腹が見える。どういう顔面と体型で俺はなんて質問をしてるんだ。
彼女は目を泳がせる。
「それは――自分でもわからないの」
「は?」
彼女からの答えは予想外のものだった。
「ただ、君を初めて見たとき心惹かれて、話をしたい、もっと知りたいって思ったの」
――これは一目惚れという奴だろうか。俺はもう一度、自分の腹を見る。納得できない。
「君はどう? 私のことを好き?」
彼女は自分の髪を指で絡ませながら、せんな質問を返してきた。
「俺は」
もう一度言うが、美人に言い寄られて悪い気がしていないのは確かだ。
「――好きじゃない」
だけど、それを恋としてしまうにはあまりにもみっともない感情だ。
彼女は瞳を潤ませたあと「そっか!」と無理矢理声を弾ませて俺に背中を向けた。
俺は彼女の背中を見て妙な申し訳なさを感じたが、何も言わない。改札口を出て「それじゃ」と一言だけ掛けて、別れた。
あれから何の変哲もない一週間が続いた。スキンヘッドは喫茶店の一件以降見ていない。
彼女はあのあとも俺と会っている。変わらず、朝早くから夜遅くまで俺を待っているようだった。あのことはなかったかのように振る舞っていて記憶が抜け落ちているのか不安になったが、直接聞くことは出来なかった。
今日もまた駅のホームで彼女と会って、話を聞き流している。
「それで、週末暇かしら?」
「えっ?」
いつもと似たような会話をして終わるかと思ったが、今日はなんだか少し違った。
「いい加減、そろそろ二人で遊びに行ってもいい頃かなーって」
顔を赤らめて俯く彼女と、ただただ目を丸くする俺。これはデートに誘われていると解釈していいのだろうか。
俺は口を閉ざす。駅以外で彼女と横に並んで歩く俺の姿を思い浮かべて居たたまれなさを感じた。
「実は映画のチケット二枚貰ってて。映画を観るだけでもいいからお願い!」
映画とは……。なんてわかりやすいデートスポットだ。拒否反応が起こる。
二人でアオハル映画でも見て、周りから痛い視線を向けられる姿が嫌でも想像できる。
「――チケット一枚だけなら貰ってやってもいいけど。それぞれ別行動で見ればいいだろ」
俺の苦し紛れの提案に彼女は「えー……」と眉を下げて悲しそうな顔をする。
「私と遊びに行くの、嫌?」
俺は少し返答に迷ったけれど「ああ」と肯定する。
「だったら、席は隣じゃなくてもいいから、一緒に映画を観よう。同じ日の同じ時間の同じ場所で一緒に観たいの」
彼女は切実な表情で対案を話す。
何故、彼女はこうまでして俺と映画を観たいのだろう。やはり少し不気味に感じる。
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