太と馬と、妹と

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「困ったな。これは本当に困ったことになったぞ」  時は飛鳥時代ーー。  聖徳太子は屋敷で一人、全裸で途方に暮れていた。 「どうして、こんなことになってしまったんだ。わけがわからない」  すべて、アイツが悪いのだ。  そう、やたらとデカイ玉ねぎ頭をした老婆がーー。  今から遡ること一刻ほど前のことだ。    その老婆は突然聖徳太子の前に現れると、 「聖徳太子なんて、贅沢な名だねぇ。今からお前の名前は太(ふとし)だ」  と言い放ったのだ。  するとどうだろう、名は体を表すということなのか、聖徳太子の身体はあっという間に肥満体型になってしまった。  さっきまで着ていた、自慢の紫色の着物は見るも無惨に破れ、ただの布切れになってしまった。  気づいたときには、老婆の姿は消えていた。    明日から、自分はどうやって生きていけばいいのだろう。  こんな醜く太った姿を、部下や民衆の前にさらすというのかーー? いや、それはできない。  そんなことをしたら、後の時代の紙幣に自分の醜く太った姿が描かれてしまうではないか。  それは無理だ。耐えられない。末代までの恥になる。  十七条憲法よりも、  冠位十二階よりも、  天皇中心の国造りよりも、大事なことがある。  そう、それは自分のプライドーー。  アイデンティティーってやつだ。 「そうかーー」  簡単なことじゃないか。  太ったなら、痩せればいいのだ。  幸い、今は飛鳥時代。飽食の時代、二十一世紀ではない。  ファーストフードはないし、車や電車もないのだ。  飛鳥時代の平均的な食事をして、  飛鳥時代の平均的な生活を心掛ければ、自然と痩せていくはずである。  たかが百貫デブになったぐらいで落ち込む必要なんてない。  今後の政策について蘇我馬子と話し合うことを決め、重い身体で立ち上がったときだった。  聖徳太は、自分が全裸であることに気づいた。
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