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合唱コン練習開始!
『みなさんおはようございます。9月25日月曜日、もうすぐ朝の会の時間です。教室に入って朝の会の準備をしましょう。』
毎朝8時30分、放送部の朝の放送で1日が始まるこの学校。
みんな放送に耳を傾けて行動する。それくらいこの学校の放送部は学校の中心となって活躍していた。
『今日の放送の当番は2年6組、高本亜紀です。よろしくお願いします』
亜紀はマイクの電源を切って、朝の音楽を流した。この音楽で駆けだす全校生徒を放送室の窓から眺めるのが好きだった。まるで、自分の力で生徒たちを動かしているかのような感覚になる。
放送室から出て、亜紀も教室へ向かう。階段をゆっくり上がっていく。
大きくて重たい鞄を持ちながら横を抜いていく生徒たち、それでも亜紀はゆっくりゆっくり上がっていく。なんとなく自分がこの学校の中心になったような優越感に浸れる。
2年生の教室は2階。上がってから一番奥にある教室が6組だ。
長い長い廊下は奥までまっすぐで、陸上選手なら駆け出したくなるかもしれない。実際駆け出したら先生にすぐ捕まってしまうけれど。
亜紀はそんな廊下をわざとゆっくり歩いていく。開けられた窓からは涼しい風が入ってきて、季節はあっという間に秋だ。
6組の教室に入ると、すでにほとんどの生徒が来ていた。友達とおしゃべりをしている人、椅子に座って宿題を解いている人、静かに読書をしている人。それぞれだ。
教室の真ん中の号車の1番後ろ。ここが亜紀の席だ。みんなの様子を後ろから眺められる、この席が好きだった。くじ引きで当てたのだが、つくづく運がいいと思う。隣の席の子は、すでに着席していた。
「おはよう」
間宮さんに挨拶をした。間宮さんは、おはようと微笑んで、
「亜紀ちゃん、さっき放送したでしょ、聞いたよ。相変わらず上手だね」
と報告してきた。
「ふふ、ありがと、照れちゃうな」
放送部に入りたての1年生のころは、友達から聞いたよ、と言われることが本当に恥ずかしくて、できれば聞かないでほしいと思っていたが、2年目になるとそれにも慣れてきた。
逆に今では、褒められることを喜ぶ自分がいる。自分の声が他人にとって聞き取りやすい声だということは自覚していた。少し高めの可愛らしい声だが、毎日発声練習をしているおかげで滑舌はいい方だ。はきはきと自信をもって話せば人は自分の放送をしっかり聞いてくれるのだということがわかってきた。
今ではすっかり放送部の一員として放送することに誇りを持っているし、自分が放送することで学校全体が動くことが嬉しかった。それだけ放送部は生徒たちの生活の一部だったし、自分の一部だったのだ。
「あ、木村ちゃんきたよ、座ろ」
間宮さんが自分の横の亜紀の席を指さした。座れという合図だ。座るとすぐに
「みんな、おはよう」
担任の木村先生が教室に入ってきた。みんなは、おはようございまーすとそれぞれゆるやかに返事をして、席に着いた。
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