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空は水色の翡翠に似ていた。
雲がいくつも筋を作って、生まれたままの空の色に濃淡を刻みつけている。日付が変われば八月に入ろうかという頃、ひりつくような太陽の光が翡翠に光沢を与えていた。
陽光の熱が頰を撫でる。
森が音を立てた。
小人でもいるのかと、私はふと、絵本の中でしか起きないようなことを思った。
翡翠の空の端を、行ったり来たりする万緑の木々は、月桂樹。
肺の底まで包み込むようなすっきりとした木々の匂いが立ち込めた。
私は兄がくれた喉飴の心地よい甘さと苦さに目を細めた。
喉の奥まで、洗い流されるように清涼感が駆け巡る。
私は胸を伝うくすぐったさともどかしさに、伸びをした。
今日は年に一度、お兄ちゃんのカズマと一緒にハイキングにやってくる日だ。
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