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Ⅴ) 夫 20歳、妻 20歳 『日報』より(一部、抜粋)
きょうじくんは、引き続き夏休みです。
迷子事件のあと、無事実家に辿り着き、今も実家に滞在中。
きょうじくんの実家は、彼とことちゃんが通っていた中学校から、うねうねと山道を上がったり、下りたり、またちょっと上がったりした、大人の足で15分くらいの、これまた山の中腹にある。
かつては、その地方のエグゼクティブたちが挙って家を建てたものたが、代替わりも頻繁になった昨今、いくら夜景が美しくても、この様な土地はなかなか売れない。
ーー空家、また増えたな。
時代にそぐわない町なのだと知りつつも、やっぱりさみしいきょうじくん。かつては、子どもの声の絶えなかった公園で、久しぶりに会った愛犬相手に、お前もさみしいか、と。
「大学の方は、どう? 食事なんかは?
困ってることない?
母さんも、もう少しそちらへ行ってあげられるといいんだけど。 お父さん、母さんいないと、なにせ靴下の場所も知らない方だから。」
「おかげさまで、順調だから。
生活も勉強も。
母さんのご心配には及びません。
それより、母さんたちの方が心配だよ。
そろそろ、山の下に下りたら?
下の方の家、改修すれば住めるんじゃないの?」
「あのうちは、改修程度で済むかどうか。
どちらにしても、先立つものが必要でしょう?
今はあなたの学費のこともありますから。
大きな出費は、あなたが大学卒業して、無事歯科医になってくれてから考えます。」
きょうじくんのお父様は、きょうじくんが通っていた予備校のある都市で、歯科医院を営まれています。
産まれ落ちた瞬間から、歯科医になるべき宿命を負った彼は。小中高と、名門私立校の受験に失敗。普通の公立に通い、一浪。
親の手前もう後がない、例えば留年したりだとか、国家試験落ちちゃうなんてことが許されないと、重々承知している。
幸い勉強よりも実務向きとみえて、歯科大での授業は、とても楽しそう。
虫歯にならない天使のぼくにはよくは分からないけど、あの大きな手で、とても器用に色々こなしていて、先生方からの覚えもまずまず、と見受けられる。
お母様、今度こそ、ご安心を。
あなたの息子さんは、今にきっと。
とても優秀な歯医者さんにおなりですよ!
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