Chapter4・会いにきて SHE NEEDS YOU

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Ⅴ) 夫 20歳、妻 20歳 『日報』より(一部、抜粋) きょうじくんは、引き続き夏休みです。 迷子事件のあと、無事実家に辿り着き、今も実家に滞在中。 きょうじくんの実家は、彼とことちゃんが通っていた中学校から、うねうねと山道を上がったり、下りたり、またちょっと上がったりした、大人の足で15分くらいの、これまた山の中腹にある。 かつては、その地方のエグゼクティブたちが挙って家を建てたものたが、代替わりも頻繁になった昨今、いくら夜景が美しくても、この様な土地はなかなか売れない。 ーー空家、また増えたな。 時代にそぐわない町なのだと知りつつも、やっぱりさみしいきょうじくん。かつては、子どもの声の絶えなかった公園で、久しぶりに会った愛犬相手に、お前もさみしいか、と。 「大学の方は、どう? 食事なんかは? 困ってることない? 母さんも、もう少しそちらへ行ってあげられるといいんだけど。 お父さん、母さんいないと、なにせ靴下の場所も知らない方だから。」 「おかげさまで、順調だから。 生活も勉強も。 母さんのご心配には及びません。 それより、母さんたちの方が心配だよ。 そろそろ、山の下に下りたら? 下の方の家、改修(リノベーション)すれば住めるんじゃないの?」 「あのうちは、改修程度で済むかどうか。 どちらにしても、先立つものが必要でしょう? 今はあなたの学費のこともありますから。 大きな出費は、あなたが大学卒業して、無事歯科医になってくれてから考えます。」 きょうじくんのお父様は、きょうじくんが通っていた予備校のある都市で、歯科医院を営まれています。 産まれ落ちた瞬間から、歯科医になるべき宿命を負った彼は。小中高と、名門私立校の受験に失敗。普通の公立に通い、一浪。 親の手前もう後がない、例えば留年したりだとか、国家試験落ちちゃうなんてことが許されないと、重々承知している。 幸い勉強よりも実務向きとみえて、歯科大での授業は、とても楽しそう。 虫歯にならない天使のぼくにはよくは分からないけど、あの大きな手で、とても器用に色々こなしていて、先生方からの覚えもまずまず、と見受けられる。 お母様、今度こそ、ご安心を。 あなたの息子さんは、今にきっと。 とても優秀な歯医者さんにおなりですよ!
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