稀波ターン2・「スキ」がはじまる、ということ

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稀波ターン2・「スキ」がはじまる、ということ

[1年D組] くーーーっ! なんて、罪作りなヤロウなんだ、岸本辰之輔(しんのすけ)ー!! ゆるせねえよ。「赤鬼かよ」って程、デレっデレになりながら寿実(すみ)ちゃんに愛を語ったその口でー!! なにが「きれいになったねー」だよ!! こちとら、分かってんだからな、何とも思ってねえからこそ言えちゃう軽口だってことくらい!分かってんだからな! ちくしょう、絶対喜んだり、惑わされたり、しないんだからなー!! 「寿実ちゃんさあ、夏休みの宿題さあ。お陰さまで今年もバッチリだったよ。結局夏休み中、仕事忙しくてさあ。お礼も言えずじまいで、ごめんね? それだけ言いに来たあ。んじゃ、自分の教室戻るわあ。 さわも また、放課後ね。」 ーーよぼ よぼ よぼ (おな)クラで、席前後て…。さすがだよ、しんちゃん。 あんたには、いっつも神様が微笑んでいたよね。 アタシなんてお釈迦様と同じ4月8日生まれのくせに、おみくじ引きゃあ 1回目は大体『凶』。最高4連続『凶』引いたアタシに、しんちゃんが一発で引いた『大吉』くれたよね。 商店街の福引きでも、29連続『ハズレ』のアタシの代わりに引いた、ラスト1回で、特賞の『大型テレビ/レコーダー内蔵』とやらを当てていたよね。 そういや、寿実ちゃんちのおばあちゃんも、しんちゃんは いっつも当たり付きアイス当てるっつって、拝んでる時あったな。 ーーよぼ よぼ よぼ ーーキーン コーン カーン コーン … 「ふふふ。神様がお味方なさってるってえのに、それを。 どこの誰が邪魔だてできるってんだ。」 「稀波(きなみ)お前、仕事のし過ぎで、とうとう壊れたのか?」 「帰る。 つか、八雲(やくも)あんた、また背え 伸びたねえ。 今、何センチすか、パイセン。」 「知らん。183くらいじゃねえの?測ってねえから、しらん。 お前んちの瑞稀(みずき)の方がデカいだろ。」 この 八雲。フルネームは、武田尾 八雲(たけだお やくも)と言う。 うちのお兄、西周 瑞稀(にしあまね みずき)が、我が東高イケメン 3年生代表『殿堂入り王子』だとすると、1年生代表は、満場一致でこの人、と言うことになるだろう。 骨太なんだけどガッシリと、良く引き締まった183㎝の肢体。 太くキリリと伸びる眉の下には切れ長の目。 何でも クールなその目が、たまに見せる笑顔の、涙袋のぷっくり感が堪らない、んだそう。 因みに1年生代表のこの人は、みんなから『天上人(てんじょうびと)』って呼ばれてる。万年成績学年ナンバーワンの頭脳に加え、スポーツもそこそこ出来るから?名前の八雲の『雲』に因んで、『天上人』? ありがたいやら、恥ずかしいやら、まあ、自分(アタシ)じゃなくて良かった的な? 「いんや、お兄確か180ちょうどだし。休み明け 久々あんたに会ったら、こりゃお兄抜いてるな、と踏んだね。お兄、絶対バカみたいに悔しがるよね。負けず嫌いだから。あ、負けず嫌いはあんたもか。」 「瑞稀の話、どうでもいい。お前、今日 様子変だったぞ。特に、爽 堀美(さわ ほりみ)んトコ行ってから。何かあったか、仕事んことで。」 「堀 爽美(ほり さわみ)ね。ジャイケルマクソン風、もう慣れたけどね。いちお、1学期に1回くらいはツッコンであげないと。さわが不憫でね。あんたはもう、放置でいいとしても。」
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