つゆ娘

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 数日後。  亮が理科室から教室への渡り廊下を一人で歩いていると、向いから、牧原 結衣子が歩いてきた。 「あぁ!つばっきーじゃないですかあっ!」  結衣子がそう言って、にこにこと手を振ったのを見て、亮は、軽く目を逸らしながら、手を振り返した。  いつもなら、ここで終わり。  だが、結衣子が通り過ぎたあとで、亮は振り返って、 「あのさ」  と、結衣子に声を掛けた。 「え?」  振り返る結衣子。結ばれた二つの髪の束が、ゆるり、と揺れる。 「牧原、露川 涙って知ってる?」  その亮の言葉に、結衣子は、少し固まったようだった。口を一瞬あんぐり、と開けたが、そのまま、口を動かして、喋りはじめた。 「うん。知ってる。つばっきー、知ってんの?」 「こないだ、初めて会った……牧原から名前聞いた、って言ってたから」  結衣子は、あ、と呟いて、あはは、と軽く笑うと、 「あの子、変わってるでしょ? 思った事、素直にポンポン言っちゃう癖があるから、誤解されやすいんだけど。悪い子じゃないから、優しくしてあげてね」  結衣子の言葉に、亮は、どこか、不思議に感じていたことの答えが分かった気がした。  ――俺は、あの素直さに、どきどきしたけど、クラスだと、そういうところが、悪く働いて、居にくくなるのかもな。  そう考えて、亮は、ため息を吐いた。 「それよりも……」  結衣子は、楽しそうに、顔を上げて、亮の目をちら、と見ると、 「もしかして、椿 亮くん、露川 涙ちゃんに、告られちゃったぁ?」  と言って笑った。 「え、えぇえ?」  亮は、予想以上にたじろいだ。 「別に、告られてはいねぇ、けど、なんで、そう思うんだよ?」  結衣子は、 寂しそうに微笑むと、 「あの子さ、他人に興味持たないのよ。人の名前なんて、基本覚えようとしない。私が彼女と喋れるのは、私の方から、アプローチしたからで、彼女の方は、多分、私の名前覚えてないと思う。いつも、『あのさ』とかしか呼ばれないからね。その子が、廊下で私の後ろを歩いてて…で、つばっきーとすれ違った所で、『今の子、なんて名前?』って聞いてきたから、変に思って。好きなのかなー、って。」 「え、いやー、まさか。」  亮は、顔を少し赤くしつつも、ひらひらと手を振って、否定すると、 「そうぉ?ふふ。良かったー」  と、結衣子が微笑みながら呟いて、「じゃあね」と言って、去って行った。 「…良かった?」  亮は、そこに一人取り残された。  周りに何故か人が居ないな、と思ったら、そこで始業のチャイムが鳴った。
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