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彼女へのプレゼントを考えて、ぼんやりと歩いていたら、思っていたよりも、遅くなっていたらしい。
亮にしては珍しく、門限を三十分も遅れて帰って来てしまった。
寮長の先輩に、「遅い」と一言、もう一人遅れてきた同期の、柿木 貴文とともに叱られた。
二人で、遅れた人のために取ってあった、少ない晩御飯を、がらんとした食堂で食べる。
貴文が、もきゅもきゅと、から揚げを頬張りながら、
「珍しいな。亮が門限破るなんて。」
と言った。貴文は、よくコンビニのWiFiを借りて、ゲームをしているため、よく熱中して遅れることがあるのだ。
「ちょっと、雨宿りしてて」
「それだけ? だって、もうだいぶ小降りになってたやんか。俺かて、傘忘れたけど、普通にのんびり歩いても、そんな汚れへんかったでぇ」
その答えに、亮が、口をつむぐ。
貴文は、亮の様子に、ニカッと笑うと、亮の耳元に口を寄せ、
「……女か?」
と囁いた。
亮は、サッと身を引くと、
「え?」
と聞き返した。
「だって、そうやなかったら、真面目でめっちゃ良い子の亮が遅れるわけないやんか。別に今、忙しい時期やないわけやし。なんも役職も就いてへんやろ? 遅れるとしたら女や女。そうやろ? ……亮くんよぉく見ると、かっこええもんねぇ♪」
貴文のスラスラとした関西弁の喋り方に、亮は絶句する。
「いや……」
亮が一言、そう言うと、しばらく、二人は黙って、御飯を食べた。
「うぅん……付き合うとか、そういう話にはなってないけど、遅れた原因は、確かに、たかみーの言う通り、女子に会っていたからだ」
亮が、おもむろに、そう言うと、貴文は、かちゃん、と箸を置いて、ひゅう、と口笛を吹いた。
「誰? 同期か? それとも、他校とか?」
「……露川 涙って、たかみー知ってるか」
亮がそう尋ねると、貴文は、へっ? と固まった。
「あぁ、うん。同じクラス……え、まさか、亮、あいつに会ってたん?」
「うん」
貴文の表情が、だんだん暗くなっていく。
「お前……あいつのこと好きなん?」
亮が何も答えられずにいると、貴文は、はぁとため息をついて、
「マジ? あいつはやめとけ……気味悪いで」
貴文の一言に、亮はひどく驚いた。
「気味悪い?」
「あぁ。なんてったって、あいつは生粋の雨女やからな」
貴文の言葉に、は?と言う亮。
「生粋の雨女?」
「あぁ。あいつが来る日は、決まって雨が降る」
貴文に言われて、亮は、はっとする。
確かに、彼が、彼女に会ったのは、どの日も雨だった。
しかし、まだ二日ほどしか会っていない。ただの偶然だろう、と思い、
「そんなことって、あるか?」
と問うた。
「ただ、例えば…日光が苦手で、雨の日しか来られない、とかじゃねぇの?」
亮に言われて、貴文は、あぁ…と腕を組んで考え込む。
「まぁ、確かに、亮の言う通り、太陽の光が苦手なタイプってこともあるのかもやけど。あいつが美人なのは認めるけどな、気味悪いし、お前があいつと付き合うのはオススメせんわ。それに……知っとるか? 草創期の先輩が、雨の日にある女子に会って、その子が……消えた、って話」
貴文の声のトーンに、亮は、ギョッとする。
「なんだよ、それ。」
「こないだ、部屋替えの時に、掃除しとったら、十期の先輩の日記を見つけたんよ。見せたるわ、ついてこい」
そう言うと、貴文は、スッと立ち上がり、食器を持って、返却口へとスタスタ歩き始めた。
「ちょ…待ってくれよ!」
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