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「ちなみに風太くん、何もかも段取りしてくれましたよ。暁音くんのパートナーになってほしいと。ただ、僕が暁音くんのことを探しているなんて知らないでしょうが」
「風太がオレを……?」
やっぱり、風太はこの関係を終わらせたがっていたんだ。同じことを考えていたはずなのに、悲しくてまた涙があふれ出てくる。だけど、もう涙を止める気はなかった。何もかも忘れるように流しきりたかったから。
すると、ドアのチャイムが鳴った。故障かなって思ったけどピンポン、ピンポンと鳴り止まない。雄賀多がイライラしながら出てくると吐き捨て、大人しくしとけよと布団を被らされる。
ドアのチェーンが外れる音がし、まるまって息を潜めていればずっと聴きたかった声が聴こえてきた。
「はーい。雄賀多さんご利用ありがとうございました。お帰り下さいませ」
……風太の声だ!
「何言ってるの? 好きにしていいって言ったの風太くんじゃない。無責任な子って僕、嫌いだなぁ」
「勝手に嫌って下さい」
「あはははっ……! 僕をハメるなんて……大人になったなぁ。別れた時はあんなに泣いていたのに」
「もうあの頃みたいな子どもじゃないので」
「でも、開発しつくした君の身体はもう今更タチには戻れない。風太も分かっているはずだろう?」
「そうでしょうね。筋トレしたり髪を短く切っても体質は変わりませんでした。だけど、やっぱりアカネを盗られたくないんですよ」
「君はこの子をちゃんとした意味で愛せない。君も満足できない。それでもいいのかい?」
「いいからこの場にいるんです。お引き取り願います」
盗み聞きしながらシーツを握りしめる。必死に聞き耳を立てて一言一句逃さないように耳を澄ませた。部屋はいくら冷房が効いていても布団の中は暑い。ポタポタと汗が垂れ、頭がクラクラしてくる。
状況的に顔を出してもいいよな。こっそり顔をカメのように出した。様子を見ようと立ち上がり、壁から覗き込めば雄賀多越しに風太と目が合う。
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