35人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
年度末。
俺と遠田は県外の同じ大学に進学して一人暮らしすることになってる。
今までは光樹と時間が合わなくても学校に来てさえいればいくらでも顔くらいは見れたのに、しばらく見られなくなる。
同じ高校だったの、奇跡だな。
光樹と知り合えたのが、この学校に入って一番の戦果だ。
卒業式の前日。
同じ制服を着て同じ空間で過ごせるのも残り一日。
そのわずかを堪能したいと、光樹は初めて俺と会話をした学食で放課後話がしたいと言ってきた。
たぶん前に座ったのはここだろうと入り口から離れたテーブルに着くと光樹は、遠田に自分たちの関係を話してもいいかと聞いてくる。
「兄さんのところに遊びに行くって言って、春斗さんのところに遊びに行きたい」
兄を利用して俺のところに転がり込もうだなんて、なんか嬉しい。
「遠田が焚きつけたんだし、いいんじゃないか話しても」
「兄さんが春斗さんに悪いこと言わないか心配なんだけど」
俺の弟に手を出しやがってとか遠田言うかな、ブラコンだしな。
俺のことを心配してくれる光樹がいじらしい。
そしてふと、思案の表情が大人びて見えることに気づいた。
「光樹、なんか背、伸びてない?」
変わらずかわいいから小さいもんだと思ってたが、座っててもなんとなくわかるほど、成長してる。
光樹は周囲を見渡してから、上目づかいに微笑んだ。
「春斗さんとしてから、急に背、伸びたんだよね。もう伸びないんじゃないかと思ってたから、すごい嬉しかったりする」
俺が光樹の成長スイッチを押して光樹はそれを感謝していると言わんばかり。
今すぐ光樹をがっつり抱きしめて成長スイッチをガンガン押してやりたい気持ちに駆られたが、ここは学校、冷静になって我慢した。
「今のサイズでちょうどいいんだけどな。まぁ身長は欲しいよな」
「うん。役者になるのにさ、演技力あれば身長なんて全然関係ないんだけど、自分が小さいせいか身体を大きく使う役者さんに憧れるんだ」
身長伸ばすのも将来のためなのかよ。
頭下がるし、かわいいし、好きだし。
我慢できずに俺は、光樹の頭をわしゃわしゃっと撫で回した。
最初のコメントを投稿しよう!