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光樹は自分がしんどい思いをしたせいか、相当気を遣って俺を抱いた。
光樹が『心が満たされた』って言ったの、理解できた。
おだやかでたくましい男に包み込まれることは、たかぶりと安心感が混在して胸が詰まる思いがした。
光樹が残していった痛みにすら喜びを感じる。
光樹のほほに手を伸ばすと、その手を甘く噛んでから強く誠実な瞳で微笑んだ。
光樹が好きだ。
次の日の夜も光樹に抱かれた。
盆を待たずに光樹が来てくれてよかった。
できる限り光樹と過ごしたい。
光樹から離れたくない。
翌日は遠田と待ち合わせをして三人で地元に戻った。
鈍行列車の向かい合う四人がけの座席、幅を取る遠田が一人で座り、俺は光樹の隣に掛ける。
「狭くない?」
柔らかく聞いてくる光樹に、
「大丈夫」
と笑いかけ、ハッとして姿勢を正し向かいの遠田の顔を見た。
遠田はなんとも言えない表情を、苦笑に変える。
……俺、前からこうだったか?
人前で光樹に寄りかかるように座ったり甘えた視線で話しかけたり、してたか?
光樹のほうは学校では抱きついたり甘えたり、余裕でしていた。
それに対して俺は、かわいい後輩を微笑ましく受け入れていただけだった。
こんな側から見て『イイ感じで付き合ってます』みたいな、そんなのは、なかったはず。
遠田は俺たちが付き合っているのは知っている。
不快に捉えてはいないようだが、さっきの表情は『えぇ、おまえのほうがネコになっちゃったの?』って、言ってるような。
なんか、いつの間にか、俺が俺じゃなくなっている。
これは、どこかよくない、気がする。
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