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九
光樹の自宅までついていく遠田がうらやましい気もするが、光樹から離れてホッとした。
平常心に、戻らなければ。
高身長とまではいかないがそれなりの体格はしているであろう俺とあの光樹が妖しい空気漂わせてたら、はた目によろしいわけがない。
実家に帰って自室のベッドに寝転ぶ。
音楽SNSのアプリを開くのが習慣になっちゃってて、イヤホンつけて光樹の声劇を聴いて、俺なにやってんのって愕然とした。
かわいい光樹が好きで好きでずっと大切にするって痛感したのに、別の男にすがってよがってまだ足りないとか俺最悪だろ!
……いやいやいや、別の男じゃないし。
よりによって光樹を忘れて浮気するなんてとんだ畜生だなと一瞬自分に失望したが、浮気なんか、してない。
俺は変わらず一途に光樹を想ってる、で間違いない。
かわいかったころの光樹を忘れて今の光樹に没頭しても、なんの問題もない。
いや、忘れちゃダメだろ。
忘れるってことは、光樹の一部を否定することにならないか?
声劇を聴くと、顔に合わない声で真剣に台本を読み上げる光樹が思い浮かぶ。
そして、声劇の声は男前な光樹の雰囲気に合致する。
光樹のほうは、俺を慕う態度が過去も現在もなにも変わってない。
『過去の光樹』と『いい声』と『今の光樹』は、全部イコールで繋がる。
でも、なんか。
過去の光樹に対する罪悪感が、拭えない。
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