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大学の文化祭。
機会があれば光樹は喜んで俺に会いにきてくれる。
光樹と連れ立って歩いている際知り合いが光樹を気にしたときだけ、俺は光樹が付き合っている人間だと明かした。
そこから他にも光樹のことが伝わるだろう。
光樹が誠実そうな整った顔をしてるせいか、あからさまに変な顔をする奴はいなかった。
遠田の弟だと言うとみんなそっちに食いついてきて、たいして抵抗のないカミングアウトだった。
なんか、助かった。
カミングアウトしなければという緊張感が解けてきころ。
ラグビー部で出し物やってて、店番の時間が来た。
終わったら連絡すると光樹に告げ、別行動を取ろうとしたとき。
「がんばって」
光樹が自然に俺の腰を抱き寄せてきた。
俺は慌てて、腕で光樹の胸を押し返す。
すぐに光樹は俺から手を離した。
光樹は少しだけ、驚いた顔。
「悪い、人前だから」
俺、光樹を拒絶した?
違う、ただ人目を気にしただけ。
「俺もごめん」
光樹がさみしそうにあやまるから、胸が痛い。
なにか、言わないと。
だが、取り繕う言葉も時間もない。
光樹は俺の顔を見て、気を取り直すように小さく笑う。
「これから気をつけるから。ごめんね」
そして背を向け、来た道を戻っていった。
光樹が嫌だったわけじゃない。
だから光樹を避けた自分が、嫌すぎた。
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