十一

1/3

35人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ

十一

 文化祭は土日開催で、例によって光樹がアパートに泊まりに来る。  気まずいが人目のある場所で弁解するのもはばかられて、ヘコんだ気分のまま飯を食って帰宅した。  ベッドに腰掛けると、光樹はほんの少し間を開けて隣に掛け、あやまってきた。 「ごめんなさい」 「いや、俺が悪い。カミングアウトしといて、人目気にしてるとか」  俺が俺じゃないところを他人に見せることが、嫌だった。  俺は自分の中の迷いを光樹に白状する。  小さい光樹に対しては、俺は俺でいられた。  色気出して絡んでくるわけじゃなかったから、人前で抱きつかれても抵抗がなかった。  でも今は、いや今も別に光樹は色気を出して絡んでるわけじゃないんだろう。  以前同様の愛情表現されても、俺が勝手にそこに色気を感じちゃって、光樹にすがろうとしてしまう。  年下の男にデレてる自分が俺の本性だと解釈されるのが、ただただ恥ずかしい。 「実際俺の本性なんだから、隠す必要ないんだろうけどさ」 「俺にはデレたとこ見せていいんだよね。外で俺が気をつければいい話だ」  光樹を避けたわけじゃない、誤解が解けるとさっそく光樹はこちらに身を乗り出して、ほほにキスをしてくる。 「ねぇ、デレたとこ見せて。俺の前でもまだ恥ずかしがってるでしょ」  あぁ、もう一つ困ってたことあったな。  小さい光樹とこの光樹を同一視できない問題。  恥ずかしがってるわけじゃなく、前の光樹に悪くて今を素直に受け入れられない。 「あのさ、今日は声劇やんないの?」 「どうしたの急に?」  話をそらしたが、脈絡がなさすぎた。  今の光樹が声劇をやってるところを見たら、前の光樹とちゃんと合致するかと思ったんだけど。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加