十一

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 変なこと言ったから、光樹は俺の真意を探ろうと少し表情を暗くして俺を見据えてきた。  光樹が、こわい。  いや、こわいのは、光樹に嫌われること。  こわい顔されて当然な態度とってるんだけど、そんな顔で、見ないで欲しい。  いたたまれなさが最高潮に達して、俺は、こっちの件も白状した。  光樹の一部を受け入れられないでいる、難しい顔をした光樹が静かに口を開く。 「高一のころの俺と別れて」  即座に、それは無理だと思ってしまった。  俺を見上げて甘えてくる光樹を思い出す。  ……俺、ダメじゃねーか。  光樹を忘れるのは光樹に悪いと思っていたが、光樹が光樹を忘れろって言ってんのに。 「別の人間だと思ってるんでしょ? 前の俺のほうが好きだったり……」 「今のほうが好きだから!」  かぶせるように、言い放つ。  そんなふうに、思われたくない。 「中身は同じだろ、年下なのにやたらしっかりしてていい声してて。今はさ、それに合った顔と身体がたぶん、俺の好みなんだ」  自分が自分でなくなるなんて、俺は今の光樹のほうが相当好きなんだと思う。  それを言っても今の光樹の前で不穏な態度を見せてしまっているから、光樹の表情は悲しげなままだ。 「俺今、春斗さんが、高一のころの俺に似た人のところに行っちゃうんじゃないかって、すごい不安」  いつもそんなにしゃべらず態度で示してくる光樹が、懸命に話してくる。  俺が離れていくことにおびえてる。 「前に、本当は抱かれたいのに俺を抱くって言ったの、昔の俺を抱こうとしたから?」 「ん。そうだな」  なんで憶えてるんだよ。  はぐらかしてもバレそうで、正直に答える。 「抱かれたいなら素直に言って。それ、浮気と同じに感じる。いやだから」  光樹が不満を述べることなんて、滅多にない。  俺に対して強く痛く想いを吐き出す光樹に、焦がれる。 「わかった。俺さ、今、光樹に抱かれたいとしか思えないんだ。ごめん」  光樹は唇を噛んで、目を細める。  感極まっているのか、でもどこかまだ悲しくも見える顔。 「あやまらなくていい」  ベッドに倒され、くちづけられる。  俺は望み通り、抱かれる側に転向した。
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