十二

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 翌朝。  目が覚めて、ベッド横の床に敷いた布団で眠る光樹を見下ろす。  寝ててもきれいな顔してて、すごい好きだと無性に思う。  でも。  アパートにいるうちはいい、今日は昼過ぎに遠田と待ち合わせして実家に帰る。  外に出るのは、気が重い。  しばらくベッドでほうけていると衣擦れの音がして、俺は寝転びながら再び光樹を見下ろす。  光樹は起き切らない目で俺を見て、またたく。  なんかかわいくて手を伸ばしほほに触れ、親指でくちびるをなでると、光樹はつらそうな表情になる。 「春斗、別れよう」  光樹に言わせてしまったことが、申し訳ない。 「ごめんな、俺のせいで」 「俺のせいだよ。春斗につらい思いさせてる」  好きすぎるから、つらい。  自分の変化に対応できなくて、愛しい気持ちがデカいぶん、外で強く自分の感情をおさえこんでしまう。  それは比喩ではなく胸に痛みをともなうほどの負荷で、好きなのにつらいなんて、矛盾してて悲しくて。  光樹に対してこんな気分になることが嫌で。  いろんな部分がちぐはぐでかみ合わないから、自分がバラバラになってしまいそうな感覚。 「常日頃会えてればな。会えない反動がヤバいんだ。……言いわけだな、ごめん」  しばらく物理的な距離を縮めることはできない。  この先縮まるとも限らない。 「会えてればね、俺が急に変わって春斗が困ることもなかったかも知れないね」  伸ばしていた手を、光樹が手に取る。  触れられることが心地よい。  別れ話をしているなんて嘘みたいだ。 「それだったら、俺がタチのままでいられて、うまくいってたかな」  たぶんそれがベストだった。  俺に甘えたがる光樹をかわいいと思い続けられれば、光樹に戸惑うこともなく、外でも自分は自分のままでいられたのではないか。  でもその転機に距離と時間を置いてしまって、食い違った。 「無理させてごめんな」 「俺は無理してない、あやまらなくていい。しかたないよね、合わなかったんだ」  どこか自分に言い聞かせるように、光樹がつぶやく。 「春斗が遠い大学に行ったのも、俺が成長したのも、誰のせいでもないもんね」  無理、してたと思う。  肩の荷が下りた光樹は柔らかい口調で、高一の時からなにも変わっていないのだと思わせる。  甘えても気丈な光樹は、俺の手を撫でさみしげに微笑んだ。 「これ以上溝ができる前に別れたい、大好きだから」  それは俺も、同感だ。  このままだと自分に芽生えたどうにもできない不快感を、光樹に対するものだと誤認してしまう。  それは絶対に嫌だ。  光樹の手が乗ったままの手で、俺は再び光樹のほほに触れた。 「俺も好きだから、別れたい」
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