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 二人きりになると光樹は正座で姿勢を正し、やわらかい笑顔で俺を見てきた。 「春斗さんが俺の部屋に来るなんて、うそみたい」 「あーそっか。兄貴が遠田でよかったな」  光樹がまた嬉しそうにするのが俺にはやはり気恥ずかしくて、そっけなく返す。 「ねぇ、春斗さんが声劇やってるとこ、見たいんだけど。声だけ聞いてたら、どういう顔で話してるのかなって、気になって」 「俺も光樹がどういう顔で大人のイケメン演じてんのか見たいんだけど。全然想像つかない」  そんなわけで、別に離れててもできる声劇をここですることになった。  光樹はクールなサラリーマン、俺は気弱なサラリーマン、そんな二人の日常的な、BLじゃない声劇。  光樹は俺が最初にBLな声劇しかユニットできなかったことに文句言ったから、そうじゃない男同士の台本を探してくる。  気をつかってくれてんのかな。  俺は普段の会話とそんな変わりない調子で台本を読むけど、光樹はもう、別人だった。  光樹から声が出てるとは思えない、ホントにクールな大人の男の低い声で、どこがどうなってんのって感じ。  別の次元から別の奴がしゃべってんだろ。  録り終わってそう言うと、光樹は照れ混じりに笑う。 「春斗さんは顔と身体のイメージ通りの読みかただよね。包容力あってくすぐったくて、ユーモアがあってなんか守ってあげたくなる」  んん?  包容力とユーモアはまだわかるが、他は心当たりないんだけど? 「俺なんて素人も素人だからそんな声に味もないだろ。光樹は確実に本気ですごいよ。なんで俺、こんなすごい奴に好かれてんのって、よくわかんないんだけど」  多種多様な役を難なくこなしているせいか、私生活でも有能な人間なんだと思えてしまう。  生徒会長してたくらいだから実際有能なんだろう。  自分よりすぐれた人間が自分に惚れている状況に納得がいかない、俺が最近不思議な気分になる原因はここか。 「春斗さん、俺が本気で好きになっちゃうようなこと、いっぱいしてるでしょ」  それもまた心当たりがなくて、俺は首をひねる。 「俺に興味もないのに連絡先教えてくれたり、カラオケ誘ってくれたり。タメ口で話しても全然気にしてないみたいだし」 「あれ、いつの間に? 気づかなかった」  なんだろな、甘えてる感じが光樹に合っていて、最初は敬語だったはずなのに違和感なかった。 「部屋に来てくれて声劇も一緒にしてくれて。俺のためじゃなくて、優しさとノリでそうしてくれてるんだろうなとは思うんだけど」 「いや、光樹が喜ぶかなってやってたところもあるよ?」  光樹のためにそうしていた部分もあって訂正を入れると、光樹はまた嬉しそうに小さく笑う。 「そうなんだ」 「そ。なんかかわいい後輩だから」  光樹の頭に無意識で手を乗せ、撫でる。  そのとき唐突に、俺の身体の中にひとつの想いが、強烈に充満した。 『光樹が好きだ』  どうして急にとか、考える余地がなかった。  光樹の頭に乗せた手を引っ込めることもできない。  たぶん俺はほうけた顔をしてるだろう、不審がられないよう意識することもできない。  想いに縛られたように、本当に、動けない。 「どうしたの?」 「どう、しようか」  戸惑う光樹の声でようやく手を下ろしたが、相変わらずそれ以上身体が動かない。  光樹が好きで、好きで、好きだ。  ただ、それだけ。  進退窮まって、困る。 「なにが、だろう?」  戸惑ってるのは俺のほうなんだけど。  なにがと聞くから、どうにか、答えた。 「光樹が好きなんだけど、どうしようか」
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