エピローグ

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エピローグ

 病院に入院中に知り合って二年、僕には梅ティンという友人がいる。おなじ病気でいわば戦友だ。年齢も四〇を過ぎた同じ年代だ。 「おれたちアル中は皆、ブーメランという武器を手に壮大な実験をさせられているんだ」と梅ティンは電話で、いつもの例え話を始める。  梅ティンは、有名私大を出て製薬会社に就職した。営業を担当して東京支店の課長まで出世した。今年で44歳のはずだから20年以上勤務していることになる。  彼の実家である神奈川から通う生活が埼玉転勤になったのが五年前。それからはアルコールの量が増した。独身でモウレツ社員だったからお金には困らなかった。初めは孤独から、そのうち恋愛、そしていわゆる水商売の女の子にも熱を上げいつしかアルコール漬けの日々が始まった。 「俺だって、わかってたさ。こんな華やかな日は続かない。なんつーかな、パチンコでデートの日に限ってやたらと出ちゃう日があるだろ。『有卦に入る』ってことわざがぴったりでさ、当時は。自分でもわかっていたんだ、アルコールっていうブーメランが、きっといつかは自分の手元に戻ってきて自分の首までスパンと刎ねてしまうって」と梅ティンが語る。僕はこのブーメランの話が好きだった。梅ティンの話は続く。 「さあ、首は刎ねられたぞ、清水。(清水というのは僕のこと。清水直人(しみずなおと)という。)おれは今、刎ねられた首を一生懸命探しててさ、また首をつけ変えたらゲームは再開できるような気がしているんだ。また投げては獲物を取る。辛いけどそうやってしか生きられないんだ。そういう芝居を永遠とやらされている気がしてね、そのためにはこうしてアルコールってものがちょっと必要なわけよ。もしかしたら今度こそは大物を取って、もどってくるブーメランも、かわせるような気がしてさ」
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