第5章 社会人

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 由佳も一緒に住むことになった。彼女は同じ小田急線に職場があるので、原田のほうが便利であった。二人合わせての給料ならばと、2DKのマンションの5階を借りた。月9万はしたが、都心よりはかなり格安であった。 「大きなソファーがほしい!」という由佳の提案でテレビとソファーは大きなものにした。部屋のあちこちにはポプラやアイビーなど観葉植物がいっぱい増えた。車も新しく買い換えた。中古だが昔のボルボワゴン。収納のよさやキャンプなどを考えて買った。とはいえ由佳がそのお金をほとんど出してくれたのだが。  休日には近くの里山を二人で散歩した。運が良ければカワセミやキジに出会うこともできた。山頂から見える街並みは緑が多く仙台の実家に似ているように感じた。 「なんか懐かしい光景だね」と由佳は言った。 「田舎ってこと?」僕は訊き返す。 「半分当たっている」二人で笑った。桜の木はすっかり花を散らし、まばゆいばかりの青葉が芽を吹いていた。 「なおくん、検品―!」今日は高田さんだ。某運輸会社の配送、高田さんは仏頂面だ。機嫌の良しあしがすぐわかる。 「はい、今行きまーす!」僕はフットワークが取り柄だ。高田さんは大の寅さん映画と釣りバカ日誌のファンで、機嫌がいいと寅さんのテーマを鼻歌でうたっている。  トクチャン同様、独身で60歳は過ぎている。愛車は古いシビックだった。「けっこう毛だらけ猫灰だらけ」が口癖だった。高田さんもトクチャンと一緒によく飲みに行ったっけ。
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