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第2章 飲み始め
初めてアルコールを口にしたのはいつごろだろう。高1の夏のころだったと思う。
ちなみに飲み始めの年齢が早ければ早いほどアルコール依存者になり易いと言われている。
或る日のこと、
「清水君(僕の名前は清水直人という)、今週の土曜、暇?」と訊いてきたのは僕の1つ上の先輩つまり高2の香川やよい先輩だった。
やよい先輩は中学時代の部活の先輩で、僕が中学の時から面倒を見てもらっている半分ヤンキーな先輩だ。茶髪がきれいな美人で肌は当時はやりの小麦色の肌。僕もあこがれの先輩でやよい先輩が行ったから今の高校を選んだくらいでもある。
「暇ですけど何かあるんですか」今度は僕から聞いた。
「あのさー、今度の土日って家の親が旅行に出かけるのよ、どうせだからみんなでパーティーしない? ホラー映画とか見てみんなでワイワイやろうよ」
「いいっすね」僕は胸がドキドキした。こんなことは初めてだ。
「だから男子を4,5人集めてくんない? 私たちも4,5人集めるから」
「オーケーです。でもそんなに呼んじゃって大丈夫ですか?」
「うちには大広間があるの。10人くらいは平気よ」
「わかりやした、土曜の夕方ですね」僕はこのお誘いにワクワクした。
7月の初め、クチナシの花の芳香が鼻をくすぐる夕方、僕はバンド仲間を引き連れてやよい先輩の家にお邪魔した。
やよい先輩の家は豪邸で立派な門をくぐると豪華な和風庭園が広がっていた。もう女子たちのケラケラした笑い声が大広間から聞こえてくる。庭には築山や池もあって錦鯉が泳いでいる。「すげー豪邸だ」僕は思わず声を上げた。
大広間に通されるとそこには高1、高2の女子が5人集まっていた。
大きなテーブルにはピザや唐揚げ、スナック菓子が所せましと準備されていた。
そして飲み物は缶ビール、缶チューハイ、コーラなどがいっぱいに並んでいる。
こんなシチュエーションは初めてだったので背徳感でドギマギした。
「それじゃ、Y高初、清水君たちと合コンということで乾杯!」やよい先輩が音頭を取った。
「カンパーイ」
今までにない最高で楽しい時間になった。
缶ビールは苦くて大人の味がした。苦いのは嫌いじゃなかった。シュワシュワとした刺激がのどに刺さるような感覚。そのうちにふわふわとした気分になってくる。レモンサワーも飲んだがビールのほうがおいしかった。修学旅行の夜に悪さをするようなスリル感。いつものおしゃべりが百倍楽しく聞こえるような気がした。
「山手線ゲーム! 在校生イケメンランキング!、ハイハイ!、○○先生のモノマネ!、ハイハイ!」
だんだんと気分がよくなって、いつしか腹を抱えて笑うようになっている自分がいた。
「○○君と○○さんは付き合ってるんだって」いつしか恋バナにもなっていた。
頭が軽くなって、なんでもないことがおかしく感じる。アルコールって不思議だ、そう思ったに違いない。
「清水君、これ吸ってみる?」やよい先輩から渡された吸いかけの煙草。細くて長くてフィルターには真っ赤な口紅の跡が残っている。あこがれのやよい先輩の吸いかけの煙草。
断る理由はなかった。
「フ―」しばらくすると頭がクラクラした。ますます頭の中の脳みそが僕を楽しい気分にさせた。
大人はいつもこんな楽しいことをしているのか、と思うとちょっと悔しくなった。
そのあとも楽しい時間は続き、気がつくと午前様になっていた。
帰りには意味もなく「バッカス、バンザーイ」と叫んで家路につく自分がいた。
それからというもの、僕はいわゆる「機会飲酒」というやつで、高校生のうちはイベントがあると決まって打ち上げと称して飲むようになった。文化祭の打ち上げ、体育祭の打ち上げ、バンドの打ち上げ・・・。
飲むとシャイな僕でもつい陽気になって、女子とも普通に会話が盛り上がるので「酒」は僕にとって魔法の水となっていた。
高3になるとさすがに大学受験の勉強に明け暮れて酒量は減ったが、上京して必ずや大学に入ってバブルのような大学生生活を送ることをウヘへと夢見ていた。
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