第3章 大学時代

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 気づけば僕は大学4年生になっていた。  僕は血眼になって就職活動をする大学の連中を見ては、疑問を感じていた。ついこの前までパチンコやら麻雀やらに、はまっていた連中もその豹変ぶりが不気味なほどおかしかった。(大学は勉強をしに来るところだろ)と内心は思っていた僕は、大学は就職準備をするところでもある、という概念がまったくもって欠落していた。  未曾有の不景気であった。数十社受けても最初で振り落とされてしまう友人もいた。僕は数社を受けた時点でもう嫌になった。働きたくなかった。  もっと勉強をしていたい、もっとモラトリアムを楽しみたい、そんな刹那的な過ごし方で、好きなロックやポップそしてジャズを聴き、並行して作詞・作曲にのめりこんだ。たわいもないポップスだが英語で歌詞を作るのが面白かった。現実から逃避するために酒とタバコはやめられなかった。  唯一の支えは西田由佳(にしだゆか)との交際だった。自動車教習所で仲良くなったのがきっかけだった。栗毛色の長いストレートな髪がいつも艶を帯びていた。世間的にも可愛かったんだと思う。そんな由佳の愛はいつも優しく僕を包んでくれた。頭はあまり良くないのが、逆に可愛くいとおしい存在であった。僕は従順に彼女の愛を受け入れ彼女を愛した。 「なおクンのね、耳の裏のにおいが好きなの」 「なおクンがね、気持ちよくなれるならわたし何でもする」 「なおクンがね、私のポケットに入るくらい小さくなってね、いつも私のそばにいてくれたら、私は何でもできる気がする」と由佳は言った。  由佳はもう短大を出て立派に就職を決めて働いていた。歯科医の受付や助手である。土日の休みはしっかりとれるわりに給料も悪くはなかった。勤務地が都内の郊外とあって、就職を機に埼玉の春日部にある実家から独立して一人暮らしを始めたのである。 由佳の家は小田急線の登戸から歩いて10分くらいの僕と同じようなアパートだった。週末はお互いの家を交互に泊まりあった。一緒によく多摩川を散歩した。バーベキューも友人を呼んでやったっけ。貯金をしては二人で旅行に行こう、と楽しみにして働いていた。そして年に4,5回は伊豆や長野、千葉などのペンションをまわりちょっとした贅沢をした。金銭面ではずいぶんと助けてもらった。
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