第3章 大学時代

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 ただ由佳が就職して仕事が始まると、一緒にいれる時間は少なくなった。恋しいのと同時に自分の学生という身分に羞恥心を感じた。先の見えない不安に怯えていた。  そんな時は決まって酒を飲み始める。自己逃避の始まりだ。日本酒の紙パック2リットル、780円の「鬼殺し」である。酒を飲んだ瞬間、五臓六腑にしみわたる快感がたまらなかった。そして煙草に火をつけ大きく息を吸い込んではスーと吐く。これが一日の日課であり、ルーティンとなった。就職活動をしなくては、という焦りと社会人となることへの抵抗が、この儀式でチャラになった気がした。  ビートルズの「リボルバー」をかける。She said She said .で始まるこのアルバムが、大好きだった。ジョンもポールも僕を慰めてくれた。  酒を飲むと、難しいコードでギターを弾いてもなんだかとても頭が冴えてくるような気がした。飲んで万能な感覚のうちに歌詞やコードを楽譜に書きこんでいく。ライム(韻を踏む)も英単語がスラスラっと思い浮かんでくるのだ。そして決まった時間に由佳に電話をして愛を語り合った。電話が終わればまた楽器を駆使してMTR(自宅用多重録音装置)と向かい合う。自分たちで作る自分たちのための『無農薬』の音楽、それが僕のモットーでもあった。  夜中12時を過ぎると友人の松本がバイトを終えて家へやってくる。奴は同じ高校でバンドのギタリストだった。大学進学を機に僕と同じように東京に上京してきたのだ。松本は僕よりもギターがずっと上手だったから、MTR録音には欠かせない存在だ。そしてできた曲を肴に2人の酒はぐいぐい進む。気がつけば外は明るくなり松本も始発で帰っていく。同時に僕は酒を買いにコンビニへ行く。寝る前の日課である。そこでまた酒を買って弁当とともに流し込み、いい気持ちに満たされたところで眠りにつく。  起きると昼すぎ。猛烈にだるい。頭も痛い。 (はー・・・またやっちゃった、いかんいかんこんな生活・・・)と決まって後悔するのだ。
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