いなくなった可愛いあの子

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 結婚して四年、勇太が生まれて三年、自分で言うのもナンだけど、俺って結構良い夫、良い父親だと思う。だから夫婦円満、家族円満、幸せだなぁ。  あ、そうだ。明日はいつもより早く会社に行くんだ。里奈に言っておかないと。 「里奈、明日いつもより一時間早く会社行くから。」 「そうなの、分かった。」 「朝ごはんもお弁当も、簡単でいいからね!大変でしょ?」  一時間早いと大変だからね、簡単でいいって言ってあげる気遣いだよ。ほら、俺って気の利く夫でしょ? 「……分かった。」  里奈、そこは“ありがとう”でしょ?って思ってもあえて言わないよ?俺って優しいから。 「あ、里奈。牛乳が無いんだけど。」 「…そう。」  里奈、そこは「ゴメンね」だよ?でも大丈夫。俺は寛大な男だから。こんな事で怒ったりしないよ? 「私、明後日の土曜日、出勤になったんだけど、パパは休みだよね?」 「うん、休みだよ。いいよ、仕事行って。大丈夫、勇太のことは見てあげるから。」  俺、妻の仕事にも寛大だよ。働きたいって言うから許してあげたし。ちゃんと育児も手伝ってあげるし、コレってイクメンって言うんでしょ? 「あ…うん、お願いね。」  おやおや、里奈、何だか暗いなぁ。ホラ笑って!俺みたいにニコニコしないと! 「私…ちょっとコンビニ行ってくるね。」 「こんな時間に?」 「…うん。買い忘れがあって…。」  ダメだなぁ、ちゃんとメモとかしてる?そういうの大切だよ? 「行ってらっしゃい。ついでにビールも買ってきてー。」  ビールとかもね、ちゃんといつも冷やしておいて欲しいんだけどね。時々無いんだよなー。やっぱり、買い物メモを書いた方が良いんじゃない?うん、そうだな、里奈が帰ったら教えてあげよう。  それにしても、里奈、この頃表情が暗いなぁ。何でだろう?ほら、この結婚式の時の写真みたいにニコニコしないとね! 「パパ?それなーに?」 「ん?これはな、パパとママの結婚式の時の写真だ。」 「ママきれーい。おひめさまー。」 「そうだな。お姫様みたいだな。可愛かったぞー。」  あんなに可愛かった俺の里奈は、この頃すっかり変わってしまった。俺の可愛いあの子はどこへ行ったんだろう?どうしていなくなったんだろう? 〈end〉
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