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11,
「―――――なにそれ」
彼の話を聞いて、私は呆然としていた。
まるで信じられなかった。
あの、どうしようもなく孤独を感じた人ごみのなか。
彼が、ただ私に会うためだけに、ずっと、一生懸命、走り回って、探してくれていたなんて―――。
『·····カイヅカさんっ!』
土手沿いのあの人混みのなかを、かきわけながら。
必死に手を伸ばして。
そして、とうとう本当に、私を見つけてくれたなんて。
「本当に·······?」
「ごめん、本当」
信じられないと言わんばかりの顔で、呟くようにそう尋ねた私の声に、彼が言った。
―――ずっと。
そのまっすぐな目が、私を静かに捕らえて離さないから、呼吸を繰り返すたびに、私はたちまち泣きそうになっていく。
時間が、止まっているような。
たまらなくなって、喉の奥が、震える。
――――ついさっき、彼にキスされた唇が熱い。
いつのまにか、もう身動きも出来ない。
そうして私は、今さらようやく理解している。
土曜日の夜。
二度目に私に声をかけてきたときのこと。
ーーー“彼の態度には、どこか覚悟めいたようなものが垣間見えて、私は無下に断ることが出来なかった“
あの時、彼の瞳に灯っていた、静かな火の正体。
それが何なのか、今ならはっきりわかる。
彼は、見つけた。
それはきっと、ありふれているはずなのに、これまで世界中のどこにも見つけられなかった、特別な感情―――。
(ああ······)
ついさっき、彼から直接この唇へ、受け渡された熱が。
やがて、静かに繰り返される私自身の呼吸を伝って、無防備な身体全体へとじんわりと広がっていく。
心地よく。あたたかく。
どこまでも、溢れていく。
そうして、私は生まれて初めて感じるような、どんな言葉にもできない、―――ものすごく幸せな切なさに包まれて涙をこぼした。
そして、雨音のなかに紛れそうな声で。
たぶん、かろうじて、こう言ったのだと思う。
「――――ありがとう」
今夜、私と彼の間に起こった、ささやかな出来事。
これはきっと、世界中の誰もまだ知らない物語。
私と彼、二人だけのための、奇跡。
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