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4,
日曜日。
花火大会の最終日。
仕事は休みだった。
私は、朝起きて、ポットのお湯を沸かすためセットする。
冷凍庫のトレーから氷を取り出して、無造作にコップの中に落とす。
蛇口から水道水を注ぐと、コップの中の氷が、キリキリ、と音をたてて軋んだ。
それを一気に飲み干す。
一息ついたところで、ふと、テーブルの上に放ってあったあの花火大会のチラシが目に飛び込んできた。
妙に気恥ずかしい感情が胸に広がる。
何だかんだ、二日連続、一人で行ってしまった。
何やっているんだろうと自分でも思う。
端から見たら、もはやホラーだ。
絶対に誰にも言えない。
部屋の中に響くある音に気がついたのは、その時だった。
「·········っ」
おもむろにワンルームを横切って、窓のカーテンをバッと開けると。
「···········あ」
窓の外はものすごい雨だった。
灰色に煙った、どこまでも広がる世界。
おはようタイマーで勝手についたテレビの画面上で、天気予報のお姉さんが、矢印のついた魔法の棒みたいなものを手にして、残念そうな顔で説明している。
「·····今日は、南の方から近づいてきた低気圧の影響で、全国的に大きく天気が崩れるでしょう。特に、····地方、····地方においては、激しい雷雨を伴った豪雨が短時間に――――」
私はすぐに、スマホを手にとって、花火大会の公式サイトを検索した。
“ 雨 天 中 止 “
はっきりと表示されたその文字が、大きく見開かれた私の網膜に焼き付いた。
夜の八時。
雨は一向にやむ気配すらない。
私はソファーに座って、冷蔵庫で冷やしておいた桃の皮を剥きながら、あくびをしていた。
テレビでは、芸人が世界中を旅する番組が始まっている。
私のお気に入りの番組だ。
明日からはまた仕事。
これまでと変わらぬ日々。
「···········ふぁ」
またえらく呑気なあくびがでる。
私はこうやって独りぼっちで、誰にも知られることなく、穏便に人生を楽しみ、いつか、静かに老いて、どこかへ消えていく。
悪くはない。
丁寧にカットした桃の甘さも、クーラーのきいたこの部屋も、私にとっての幸せの一つだから。
八時十五分。
しばらくして、桃を食べ終わると、皿をキッチンに片付ける。
お風呂にでも入るか、と給湯機のスイッチをいれた。
着替え、着替え。
部屋のなかに干しっぱなしだった下着とTシャツ、バスタオルをかき集める。
全ての準備が終わって、私はソファにどっかりと腰を下ろした。
さて、あとはお風呂が沸くのを待つだけ。
八時二十分。
私は傘を掴んで、アパートを飛び出した。
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