201人が本棚に入れています
本棚に追加
耳触りの良い柔らかな声がそう言えば、今度は口元を扇子で隠した薄紅の王が現れる。
「王は、この世で最も美しくあるべきよ。美しさは矛であり、盾であるのだから。それに、この美しい姿を見て、民は妾に仕えることにこの上ない喜びを感じるの。民の命を預かるのが国王なのだから、預けてくれる民には、少しでも良い思いをさせるべきでしょう?」
そう言って扇子を閉じた女王が、艶やかに頬笑む。その姿が溶ければ、次に現れたのは紫の王だった。
「……干渉しないのが王。私は民を守るから、民は好きにすれば良い。私は個々の自由を尊重する。だから、民のやることに口を出す気もない。……けど、守りにくいことをしようとしたら別。そういうときは、ちゃんと止める。王というのは、そういうものだと思う」
起伏の少ない声で言った彼女の姿が歪む。そして次に像を結んだのは、黒の王だ。
「戦争になったとき、一番死にそうな場所に行くのが王。黒には王族が存在しないから、王が死んでも代わりが用意しやすい。だから、一番死んでも良いのが王なんじゃない?」
面倒くさそうに言った黒の王の姿が歪み、今度は白の王が現れた。
「国民の皆さんを導き、指南するのが王だと私は考えております。一人一人と向き合い、平和のためにそれぞれに何ができるかを教えるのです。その行いは、やがて世界中に平和を運んでくれるでしょう。それこそが、白の王である私の役目だと信じております」
白の王がそう言って祈るように目を閉じれば、歪んだ姿は次いで金の王へと変わった。
「新たな可能性を見出したとき、誰よりも先んじてそれに触れるべきが王です。それが毒となるか薬となるか、自らの身を以て試し、薬となるのならば、どんなものでも取り入れましょう。変化を恐れず味方につけてこその王なのです」
幼い顔に自信をいっぱいに浮かべて言った金の王の姿は、最後に銀の王の姿へと変化した。
「王とは、秩序と伝統を守る存在である。過去を尊び、古くより存在する基盤を最大限に活かすことで、より良い国家へと昇華させるのだ。伝統には伝統足り得る理由があり、新しきものでそれを踏み躙るなど、もってのほかよ。歴史を守り続けることこそ、王の役目と心得よ」
最初のコメントを投稿しよう!