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カラン、カラン、と音がした。
下駄が地を鳴らし、それはゆらりゆらりとやってくる。
*
人の賑わう繁華街のど真ん中。その日その場所は怒号で満ちていた。
「やめて下さいっ……!!」
「おいおい、なんだその態度は…?お前がぶつかってきたんだろうが、仕打ちするのは当然のことだろうがぁ?」
男はニヤニヤとした顔で笑っていた。
その後ろにはその仲間が数人いて、値踏みするように全身を見回し、口角を上げてケラケラと小さく笑っている。
ただ、肩が少しぶつかっただけだった。
買い物を頼まれ、確かに急ぎ足ではあったが、私はしっかりと男たちを避けようとしたのだ。
しかしその前に、この集団を率いる男と目が合った。
するとその途端、男はわざと近づき、ぶつかってきたのだ。
おそらく夜伽の相手にちょうどいいとでも思われてしまったのだろう、咎められ、今に至るという訳だった。
あたりに散らばった先ほど買ったばかりの惣菜や野菜。
それらは土をかぶって、傷ついてしまった。
それらはまるで自分の行く先のようで、少女はふっと目をそらした。
周りには人が大勢いたが、助けようとする度胸ある者はいない。
チラリとこちらをみては、急ぎ足で立ち去る者、隠れる者。
相手は腐っても侍だ。そうしたい気持ちも分かるし、私でもそうしたであろう。
しかし。
窮地に立たされた挙句にこの仕打ち、少女の目には薄く涙がたまっていた。
「貴方がたがわざとぶつかってきたんでしょう!?お願いです、離して下さいっ!!」
少女は折れそうな心を立て直そうと力強く叫び、手を振りほどこうともがく。
しかし暴力に明け暮れた侍の力に、叶うはずもなくビクともしなかった。
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