プロローグ

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プロローグ

 寒いくらいのだだっ広いグラウンドに、湯気が立ちそうなくらい熱い球児たちがいる。  ツーアウトランナー無し。打席には四番の城川。地元最高のバッター、いや、全国一のバッターだよ。一年生ながら四番に座り、この大会の打率は五割四分八厘、ホームランが五本、打点二十八の怪物。この決勝までほぼ全ての得点に絡んでいる。本当に、いいバッターだよ。  (しゅう)は一つ息をつき、バックスクリーンを見た。0対1の好ゲーム。自分のこれまでの成績は自責点0、被安打0、四死球0、奪三振17、球数107球のパーフェクトピッチング。遊び球は無し。最終回、あとワンアウトで春季東北大会出場確定。別に甲子園に関係ないから良いんだけどさ。でも、お前にだけは負けたくねえんだわ。  柊はアウトローに構えたミットにストレートを投げ込んだ。城川は手が出なかった。低く見積って、145くらいかな。同じコースにもう一球ストレート。今度は一塁側のベンチに飛ばした。ファール。二球で追い込んだ。次は110球目。 「ここで、決めさせてもらう」  柊は振りかぶり、全身の体重を指先に乗せ、インハイに構えたキャッチャーミットに渾身のストレートを放った。城川は何とか食らいつこうとバットを振ったが、空を切った。 「ストライーク、バッターアウト! ゲームセット!」  仲間たちの歓喜の声と共に、柊は空を見上げた。 「これで、終わりだな」  柊はフッと笑うと、マウンドの上で倒れ込んだ。高一の春、短命過ぎた選手生命だった。
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