Episode1 野球場のシンデレラ

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 柊は朝練が終わり、教室の自分の席に着いた。庄田先生は朝練には来ていなかった。だが、このクラスの担任だ。すぐ会えるだろう。  気付けは、柊は何人かのクラスメイトに囲まれていた。 「ねえ、女子野球部さ、小平東に16対0で勝ったんだって?」  どこから漏れたのか、柊は「ああ、うん」と頷くしか無かった。 「すげえよな。久下山とか西洋大菅生みたい。甲子園狙えるんじゃね」  柊がはにかむと、あの女が割り込んできた。 「そう! 私らは本気で甲子園制覇目指してんのよ。この学校の名前も私たちのチームも全国に轟かせてやるんだから」  七海が膨らみ始めた胸をドンッと叩く。 「ま、そういう訳よ」 「応援してるぜ。頑張れよ」  クラスメイトからの励ましも受け、始業のチャイムが鳴った。先生の話が終わり、「才谷君はこの後先生のところに来てください」と言われた。   言われた通りホームルームが終わった後、先生の元へ歩いていった。 「どうしたんですか」 「私があの後職員室に戻った時ね、電話が来たの。関東北高校から」  柊は衝撃を受けた。関東北高校といえば甲子園に何回も出場している強豪校だ。しかも地区も東東京。 「で、なんて?」 「練習試合を申し込まれたわ。小平東を大差で勝ったチームと試合をしてみたいって」  柊は驚きのあまり小声になった。 「マジすか。いつ?」 「今週の土曜日に、関東北高校のグラウンド。他にも小山大付属高校も来るらしいから、いい練習試合になるんじゃない?」  柊は思わず庄田先生の手を掴むと、 「ありがとうございます!」  と頭を下げた。先生は満足そうに頷く。 「あと、夏合宿がしたいんです」 「夏合宿?」 「はい。もちろん、他県や他地域へ行くなんて出来ないでしょうから、この学校の前野球部が使っていた寮を使いたいんです」 「期間は?」 「一週間です。疲れも溜まると思うので、出来れば来週の日曜日から」  庄田先生はふむ、と顎をさすると、 「わかったわ。上に話しておく」  庄田先生が去ると、柊はガッツポーズをした。 「何かあったの柊」  七海が不思議そうに訊いてくる。 「後で話すよ。部活の時ね」
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