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「交代は、考えないのですか」
「交代したらもったいない。願ってもない状況だよ」
初球――ウエスト(意図的にボール球を投げること)してボール。とりあえずのスクイズ警戒だが、その心配は無さそうだ。
「打つ気満々」
千尋は苦笑した。
「当然」
答えるように柊は呟いた。
二球目――インコース低めに高速シンカーが決まり、ストライク。
三球目――アウトコースにスライダーが決まり、ストライク。追い込んだ。
凛は一旦プレートから足を外し、ロジンを手の上でバウンドさせ、息を吹きかける。
三球目――高めの釣り球――バットは、回った。
「ストライク! バッターアウト!」
「しゃあ!」
ワンナウト二、三塁。
六番の右バッターに初球――インコースにストレートを投げ、思い切り引っ張られたが、ファールになった。
二球目――低めにスライダーでカットされた。二球で追い込んだ。
三球目――高めの釣り球を見極められボール。
千尋は考えた。何を投げようか。スライダー、高速シンカーはもうタイミングを合わせられる。ならば――
四球目――凛の放った球は、空に投げ出された。ゆっくりと弧を描きながら千尋のミットに向かった――
「ストライク! バッターアウト!」
遅すぎて見逃し三振。スローカーブである。球速は大体80キロほどだ。
七番バッターは初球のツーシームを打たせ、スリーアウトチェンジ。三振ふたつと凡打でピンチを切り抜けた。
「ナイスピッチ! 氷川先輩」
凛は柊のその祝福を照れくさそうに受け取った。
「意外と、しぶといですね」
桜子は相変わらずの口調だった。
四回裏、翔はセーフティバントを仕掛けるも失敗、ワンナウト。千尋は体の小ささのおかげかフォアボールで出塁する。凛の三振、七海のライト前ヒットでチャンスを作るが、由香が三振し無得点。
節目である五回、高速シンカーとツーシームをゾーンに投げ、凡打の山を築き上げて無失点。
五回裏、律がショートライナーで倒れるも、紗依がライト前ヒット。しかし、ジェニファーが三振、姫華のピッチャーゴロでゲッツーを取られチェンジ。
その後も両者凡打が続き、七回、楡木桜子をマウンドに送った。
桜子のアンダースローと自在に曲がる変化球に凡打の山を築かされ、最終回もヒットを一つ許すも、高めのストレートが効き、最後は三振で打ち取った。3-1。強豪、関東北高校の主力に、打ち勝った。
「気をつけ! 礼!」
「ありがとうございました!」
「いやったー!」
冴島ナインは歓喜の舞を踊った。まるで甲子園出場が決まったようであった。
「よーし、一つ弁当見ながら試合見て、またやるからな」
その言葉を聞いたナインは、固まった。
「まだやるの」
「当然だろ」
その後第二試合、全ての力を出し切った冴島ナインは、小山大附属との試合は7-1で惨敗した。
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