Episode1 野球場のシンデレラ

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「交代は、考えないのですか」  「交代したらもったいない。願ってもない状況だよ」  初球――ウエスト(意図的にボール球を投げること)してボール。とりあえずのスクイズ警戒だが、その心配は無さそうだ。 「打つ気満々」  千尋は苦笑した。 「当然」  答えるように柊は呟いた。  二球目――インコース低めに高速シンカーが決まり、ストライク。  三球目――アウトコースにスライダーが決まり、ストライク。追い込んだ。  凛は一旦プレートから足を外し、ロジンを手の上でバウンドさせ、息を吹きかける。  三球目――高めの釣り球――バットは、回った。 「ストライク! バッターアウト!」 「しゃあ!」  ワンナウト二、三塁。  六番の右バッターに初球――インコースにストレートを投げ、思い切り引っ張られたが、ファールになった。  二球目――低めにスライダーでカットされた。二球で追い込んだ。  三球目――高めの釣り球を見極められボール。  千尋は考えた。何を投げようか。スライダー、高速シンカーはもうタイミングを合わせられる。ならば――  四球目――凛の放った球は、空に投げ出された。ゆっくりと弧を描きながら千尋のミットに向かった―― 「ストライク! バッターアウト!」  遅すぎて見逃し三振。スローカーブである。球速は大体80キロほどだ。  七番バッターは初球のツーシームを打たせ、スリーアウトチェンジ。三振ふたつと凡打でピンチを切り抜けた。 「ナイスピッチ! 氷川先輩」  凛は柊のその祝福を照れくさそうに受け取った。 「意外と、しぶといですね」  桜子は相変わらずの口調だった。  四回裏、翔はセーフティバントを仕掛けるも失敗、ワンナウト。千尋は体の小ささのおかげかフォアボールで出塁する。凛の三振、七海のライト前ヒットでチャンスを作るが、由香が三振し無得点。  節目である五回、高速シンカーとツーシームをゾーンに投げ、凡打の山を築き上げて無失点。  五回裏、律がショートライナーで倒れるも、紗依がライト前ヒット。しかし、ジェニファーが三振、姫華のピッチャーゴロでゲッツーを取られチェンジ。  その後も両者凡打が続き、七回、楡木桜子をマウンドに送った。  桜子のアンダースローと自在に曲がる変化球に凡打の山を築かされ、最終回もヒットを一つ許すも、高めのストレートが効き、最後は三振で打ち取った。3-1。強豪、関東北高校の主力に、打ち勝った。 「気をつけ! 礼!」 「ありがとうございました!」 「いやったー!」  冴島ナインは歓喜の舞を踊った。まるで甲子園出場が決まったようであった。 「よーし、一つ弁当見ながら試合見て、またやるからな」  その言葉を聞いたナインは、固まった。 「まだやるの」 「当然だろ」  その後第二試合、全ての力を出し切った冴島ナインは、小山大附属との試合は7-1で惨敗した。
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