Episode1 野球場のシンデレラ

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 十分の小休憩を挟み、最後の練習メニュー、インターバルトレーニングが始まった。 「ポール間ダッシュ、よーい、ドン!」  柊と綾音、二人はポールの位置に立ち、選手たちは二手に別れた。そして、ポール間約百二十メートルを全力でダッシュする、ポール間ダッシュである。インターバルは九十秒。回数は二十本。 「まあ、これくらいなら何とかなるかな」  千尋はフゥーと息を吐いたが、 「はい、千尋ゴー!」 「え、もう?」  うわぁぁあ! と叫びながら、千尋は走った。ゴールした頃には足が悲鳴をあげ、痙攣し始める。 「いや、これはきついね」  律も立ってはいたが、汗が滝のように流れている。凛、紗依も何とか耐えてはいたが、かなり辛そうだった。  一年生はどうか。 「あれ? ひいおばあちゃん、久しぶりだね」 「おい! 姫華が死ぬぞ!」  翔は姫華を揺すりながら、必死に全体に訴えていた。 「大丈夫よ。死んでないから。翔、ゴー!」 「あの姉弟鬼すぎるだろ!」  翔は陸上選手でもあった。スタミナは二年生にも負けていない。が、問題はその他の一年生。既に虫の息の者もいる。七海、由香、姫華、ジェニファーはまさにそれだった。 「はい次、ベーラン百本。まだ活きがいい二年生からいくわよー。律、ゴー」  律は勢いよく走り出した。二年生は全てクラブチームの出身。社会人と共に、プロのような練習をしていた。体力は高い。 「千尋さん意外と速い……」  七海は吐きそうになりながら立ち上がった。次は自分だ。 「七海、ゴー!」  叫びながら走る。足なんてとっくに動かない。だが、それでも動かすためには、叫ぶしかなかった。  ベースランニング百本を終え、皆死にそうな息を吐いている。 「よーし、最後に十キロ走って終わりね」  無機質な綾音の声は、皆を絶望させた。 「いーちにーいちに」 「……そーれ」 「声が出てないぞ!」  柊も後ろからついて行ったが、五百メートルでバタバタと倒れていった。 「よし、ランニングも終わったし、今日は終わりね。早く寝なさいよ」 「……ありがとうございました」  地面に向かって礼をいい、ゾンビのように皆寮へ戻っていった。 「これを毎日、一週間……」 「やめてください、その言葉だけで吐きそうです」  千尋と七海は、口元を押さえていた。
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